恋慕-8-

 


思っていたより早い遊戯の帰宅

久しぶりに主と逢って積り積もった話しでもして来るだろうと思っていたから

でも階段を駆け上がる遊戯の横顔が泣いている様に見えた

何が有ったのか・・・

運転手は、主の事故他言無用で居たが流石に遊戯の事が心配になり

大門に車中から見た光景を包み隠さず話す

 

あの主に限って浮気なんて有りえない事だが・・・

 

もし運転手が言っていた通りなら遊戯様はきっと誤解をされ

その心は傷ついて居られるかもしれない

どうしたモノか・・・

 

部屋に掃除に行ったメイドも主の部屋を掃除しに入ろうとしたが内側からカギが掛けられて

入る事が出来なかった

 

兄と遊戯が逢ったと信じているモクバは、急ぎ屋敷へ戻って来たが大門からの報告に驚いていた

確かに孔雀舞はモニターの仕事が終わってからも何かと兄にまとわり着いていた事は事実

でも朝の出勤まで一緒だとは、思いもしなかった。

兄がどれほど遊戯の事を想っているのか知っているモクバは遊戯の誤解を解くべく部屋に向う

何度かノックをしたら扉は開けられ部屋に入れて貰う事は出来た。

 

もしかしたら遊戯はショックの余りエジプトに帰る準備をしているのかも・・・

 

と危惧されたが室内は何時もと何等変りは無い

胸を撫で下ろすと

「オレがエジプトに帰るとでも思ったのか?」

「う・・・うん・・・」

「モクバは心配性だな」

何処か無理をしている笑顔

「そうだモクバ この部屋より狭い部屋は在るのか?

もし在るのなら そっちに移動したいんだが・・・」

「何で?今のままでも・・・」

「この部屋 オレ一人使うには広過ぎるんだ」

今は海馬の匂いが染みついている部屋に長居はしたくない

「在るには、在るけど・・・でも兄さまに内緒なんでしょ?バレタラ怒られるぜ」

「その時は、その時だ」

遊戯の意志は堅いらしくどうしても移動したいらしい

モクバは使用人を呼び遊戯の指示の元

遊戯が使っているモノを移動させた

元々荷物自体は少ないので時間は、そう掛からなかった

遊戯はモクバに「この事は暫くの間内緒だからな」と念押しをする

それは、モクバだって解っている

もしこんな事がバレタラ兄は仕事を放り出し急いで帰ってくるだろうから

それも機嫌の悪い状態で・・・

 

新たに遊戯用に設えられた部屋

元々は客室だった

遊戯は、その部屋の窓から外を眺めながら

 

海馬がオレを外に出したくないのって相棒達に逢わせたく無い為じゃなく

自分が女と一緒に居る所を見られたく無い為なんだな

オレって馬鹿だぜ

そんな事に気付きもしないで

いっそうの事エジプトに帰れば・・・

そんな事出来る訳無いか

オレ 海馬の事好きだし離れたくないから

 

苦笑してしまう

今になってどれだけ海馬の事が好きなのか解ったから

自分の夫だったセトの事を思い出せない程海馬の事が好きだから

でもその海馬は、自分以外の女性と一夜を供に過ごしている

作りかけのジグソーパズル

それを見ながら

 

まるで砕かれたオレの心みたいだぜ

 

 

 

遊戯が会社に訪れてから数日が経った

大切な存在に逢えない日々

抱きしめたい想いに限界だった

海馬は磯野に屋敷の方に帰宅する事を告げる

それに明晩は行きたくも無いパーティが有るのだ

その事も遊戯に伝えないといけないのだ

今度こそ遊戯を自分の傍に・・・

 

何の連絡も無く帰宅した主に大門は大急ぎで出迎える

「大門 遊戯は?」

「遊戯様は御休みになっておられます」

「そうか」

時計は23時を過ぎている

早く遊戯に逢いたい 

その一心で部屋に向う海馬

自分達の寝室で寝ている筈の遊戯

それなのに遊戯の姿が何処にも無い

 

まさか・・・

 

自分が居ない事をいい事に出歩いているのでは?

そんな気持ちに支配される

「大門 遊戯が部屋に居ないぞ!」

大門に怒鳴りつけると

「いいえ遊戯様は居られます ただ先日から寝室を変えられたのです」

「何?」

何故寝室を変える必要が有る?

兄が帰宅した事をメイドから聞いたモクバは急ぎ兄の部屋に

大門に怒鳴る兄の姿を見つけ

「兄さまお帰りなさい」

「ああ・・・」

兄の不機嫌な表情・・・確実に遊戯が部屋に居ない事が原因なのだろうと察したモクバ

「遊戯ね 1人で使うにはこの部屋広すぎるんだって

だから・・・客室の方に居るんだ・・・あっちの方が狭いから・・・」

遊戯が部屋を移動した本当の理由は伏せて

モクバ自身も本当の理由を聞いていないから憶測で言う事は出来ない

だから遊戯が言った事を伝える事にした

「モクバ様・・・」

「どの客室に居る?」

海馬邸では客室だけでも10室はゆうに有る

「兄さま遊戯に逢うのは明日でも・・・」

「遊戯は、どの客室に居るのかと言っているのだ」

「瀬人様御案内しますが折角御休みになられている遊戯様を起さないで下さい」

「解っている」

遊戯が居る事さえ確認出来たらいいのだ

「モクバ 夜も遅い お前は休んでいろ」

そうモクバに言うと大門の案内の元 海馬は遊戯が休んでいる部屋へと向う

海馬の部屋とは反対の棟にある客室の寝室で眠る遊戯を見つけた時の安堵感

柔らかい紅い髪を梳きながら額にキスをする

スヤスヤと眠る遊戯を起さないように気を使いながら抱き抱えると自分の部屋へと向う

 

遊戯 軽くなったのか?

 

気の所為かエジプトで眠る遊戯を抱き抱えた時より軽くなった様に思える

自分の腕の中で眠る遊戯に愛おしさを感じる

ゆっくり自分達の寝室のベッドに降ろすと遊戯が風邪を引かないようにシーツを

掛けてあげる

 

広いから・・・きっと遊戯が部屋を変えた理由は、それ以外にも有ると感じるのだが

それが何なのか頭脳明晰と言われた男でも解らない

人の想いは機械では無いから・・・

 

 

遊戯 貴様が何を感じ何を考えているのか俺に教えてくれ

遊戯 俺と供に未来を歩んでくれ・・・俺の傍で・・・





戻る | -7- | -9-