恋慕-9-
気持ち良い眠り・・・
鼻孔を擽る懐かしい匂い
その匂いに安心してしまう
髪を撫でる優しい感触に嬉しくなってしまう
自分を包み込む体温が心地好い
浮かび上がりかけた意識が安らぎの中に沈んで行く
「んん・・・」
不思議と心が軽い
ボヤケタ視界に写るのは、見慣れた懐かしい景色
「!」
急に覚醒した意識で辺りを見渡せば
見覚えの有る調度品・・・しかも自分が使っていたのとは異なるモノばかり
遊戯は慌てふためきながらベッドから降り書斎に向う
まさか・・・知らない間に自分で来たのか?
それとも・・・アイツが・・・?
自分を運ぶとしたらアノ男以外考えられない
寝室と書斎を繋ぐ扉を開けると
「遊戯 起きたのか?」
扉が開く音に反応しパソコンを見ていた視線を遊戯に向ける
「・・・仕事・・・会社に行かなくていいのか?」
朝の挨拶もせず飛び出す言葉
「ああ・・・自宅でも出来るモノばかりだからな
たまには、ゆっくりしたいし」
遊戯と一緒に居る時間が欲しくなったのだ
「会社から呼び出さないよう祈っててやるぜ」
嫌味交じりに言うと遊戯の足は廊下側の扉に向う
「何処に行くつもりだ?」
「自分の部屋に戻るんだぜ」
背中越しの会話
遊戯は決して海馬の方を見ようとしない
「貴様の部屋は、ココだろ?ココ以外に有る訳が無い」
当然の様に言う海馬だが
「生憎とオレは、数日前から客室を自分の部屋として使わせて貰っている・・・」
そうあの日から自分は、海馬の匂いが染みついている部屋に居る気になれなくなった
「貴様がどう言おうが貴様の部屋は、ココだけだ
俺の許可無くこの部屋から出る事は、許さない」
海馬に背を向けて立っている遊戯
その表情は強張って固まっている
胸を締め付けられる思いがする
更に自分から奪われる自由・・・
海馬にしてみればそんなつもりで言ったのでは無い
自分が居ようが居まいが今迄通りこの部屋を使い屋敷内を自由に散策すればイイと思っているだけ
遊戯を部屋の中に閉じ込めて置くつもりは、微塵にも無いのだ
擦れ違った心・・・
オレには自由なんて存在しないのか?
そう思いは、するものの言葉に出ない
「・・・解った・・・ぜ・・・」
力無く答える遊戯
項垂れる気持ちを抱きながら寝室に向う
まだこの部屋の寝室には自分の服が何点か有った筈だから
遊戯の微妙な変化を海馬は見逃さなかった
だがどう訊ねてイイのか解らない
頑になった遊戯に何を言っても答えてくれないから
海馬の部屋で朝食を取り
客室に置いてあった自分の荷物を使用人に言って運んでもらう
やり掛けのジグソーパズルも一緒に・・・
ジグソーパズルは、寝室の隅に置いて貰った
出来るだけ邪魔にならない様に
遊戯は寝室に篭りやり掛けのジグソーパズルの組み立てに入る
海馬の邪魔にならない様に気を使いながら
海馬にとってオレってどんな存在なんだろう?
隠しておきたい存在なのかな?
ピースを手に取りながら悩む遊戯
パズルの中の景色は綺麗なのに自分の心の中は暗闇でしかない
「遊戯 そんな隅でやらなくても」
声を掛けると
「邪魔になるといけないから・・・!」
背後から感じる温もり
その温もりが自分の頑なな気持ちを溶かしてくれる
このままこの温もりに甘える事が出来たら・・・
そう思いは、するものの先日見た光景がそれを拒む
海馬は、オレ以外の女にもこんな事をしているのだろう
オレが知らないと思って女と一夜を供に・・・
そんな事想像したく無い
遊戯は、頭を激しく左右に振る
今迄に何度も否定して来た
信じたくなかったから
そんな遊戯を目の当りにして
「遊戯 どうしたんだ?何を悩んでいる?俺に・・・俺だけに言ってくれ」
取り乱す遊戯の華奢な躰を強く抱きしめられる
自分の心を乱す元凶に言えるワケが無い
もし他の女と一夜を供にした事を肯定されてみろ
自分の存在を消し去る為に幽閉紛いの事をしていると肯定されてみろ
心を保つ事が出来ない
精神が崩れてしまう
「何でも無い・・・」
「しかし今の取り乱し様 何でも無いとは言えないが」
「何でも無いんだ・・・変な姿見せて悪かった・・・」
あくまでも自分にその心の中を見せない遊戯に海馬は戸惑うだけ
そんな遊戯には告げたく無い事を海馬は告げる
「今夜 パーティが有る 貴様も参加するんだ」
ビックとする遊戯の躰
また海馬に纏わり着く女達に嫉妬しないとイケナイノカ?
海馬は自分のモノだと宣言する事が出来たらどんなに気持ちイイだろう・・・
宣言したい
でも宣言して否定されたら
遊戯の心には、マイナスの発想しか思いつかない
寧ろ『海馬は自分のモノだ』とそんな宣言をされたら海馬がどんなに喜ぶか
きっと狂喜するだろう
「オレなんか連れて行ってイイのか?」
「遊戯?」
「オレなんかより お前に似合う女にパートナーを頼めばイイ・・・」
「遊戯 貴様以外この俺のパートナーに相応しいヤツなんていない」
その言葉は、嬉しい筈なのに素直に喜べない
オレなんかより舞の方がお前に似合ってるぜ・・・
言えるワケが無い・・・肯定されたくないから・・・自分と行くのは社交辞令だと言われたく無いから
「わかったぜ・・・」
承諾をする