恋慕-15-
遊戯と海馬が互いの気持ちを知り供に歩み始めて数週間が経った
海馬に手を上げたメイドは御咎め無く何時も通り海馬邸に仕えていた
(もし解雇なんてしようものなら遊戯が出て行きかねないので)
モクバが企画したゲームは予定通り無事に発売日を迎えた
そして海馬は、意を決して遊戯と向い合う
無事に発売出来たら遊戯にプロポーズをすると決めていたから・・・
遊戯の返事は既に解っている
それでも海馬は自分なりにケジメを着けたかったから
海馬からの言葉
遊戯は真摯に受け止め
「こちらこそ末永くよろしくお願いします」
と返事をした
紅い瞳に涙を溢れさせながら
海馬は遊戯と婚約した事を大々的に公表しようとしたが恥かしいので「待ってくれ」との遊戯の
言葉に渋々海馬は承諾した
慌てずとも遊戯は一生涯自分の傍に居るのだから
しかし・・・
「瀬人 貴方は獣ですか?」
海馬Co.社長室
不機嫌極まりない顔で書類に目を通す海馬
海馬と対面する形で立っている女
しかもその傍には自分の愛しい者まで居る
「貴様 いきなり社におし掛けて来て第一声が『獣』だと?」
不愉快を蒼い瞳に乗せ目の前の褐色の肌の女・・・イシズを睨みつける
だがそんな海馬の瞳を涼しげに受け流しながら
「貴方ファラオに手を出しましたね?神にも匹敵すると言われる高貴御方を!
しかも未だファラオと婚姻に至ってないないのに」
神にも匹敵・・・何時の時代の言葉だ!!
遊戯は神では無い俺の妻になる者だ
強いて言えばデュエルの神の方が似合っていると思うが・・・
「双方合意の上での行為だ貴様にどうこう言われる理由なんてない」
「ファラオに手を出したのですから最後まで責任とってくれますよね」
「貴様何が言いたい?」
確実に何かを隠しながら言っているのが解る
そして海馬の瞳が遊戯に訊ねて来る
「イシズ 率直に言った方がいいぜ」
「そうですね」
「あのな・・・オレのお腹に・・・出来たんだぜ」
照れ臭そうに言う遊戯
遊戯が一瞬何を言ったのか解らなかった
「・・・」
・
・
・
・
固まる海馬
カツン・・・
持っていたペンを落とし
その音で我に返り
「遊戯・・・本当なのか?」
余りの衝撃に海馬の脳がフリーズした様だ
彼らしくも無く間の抜けた声
鳩が豆鉄砲を食らった様な表情
思わず吹き出しそうになる
「本当に貴様のお腹に・・・俺の子が・・・」
「ああ さっきイシズと一緒に病院に行って来たから間違い無いぜ」
嬉しそうにはにかみながら答える遊戯
海馬の表情が次第に嬉しそうになり何時もの高テンションになりだす
「遊戯でかしたぞ!!!」
自分の向いに立つ遊戯の元に行きその華奢は躰を抱き抱える
まるで新しい玩具を買ってもらった子供の様に
そして遊戯のお腹に耳を当てながら動きを確認しようとする
「海馬まだもう少し先だぜ 気が早いな」
その頃イシズは海馬のデスクにあるインターフォンを押しながら
「磯野さん モクバと広報の方を連れて至急社長室にいらして下さい」
勝手に指示を出す
「瀬人 貴方に是非書いて頂きたいのモノがあります」
小さなカバンから出される折られた紙切れ
それを海馬に突き付ける
片腕で遊戯を抱き抱えながらその紙切れを受け取り中身を確認すると
「貴様 準備がいいな」
「当然です ファラオの御為ですから」
遊戯を抱えたままデスクに戻るとペンを取り紙切れに何かしら書きこむ
「これいいいのだろ?」
「ええ」
「遊戯のサインが既にされいるが何時サインさせたのだ?」
「ここに来る車中にです」
何の事か解らないので聞くと
「婚姻届です」
「お・・・オレそんなモノにサインした覚え無いぜ」
でも見せられた紙に書かれているサインは自分の字
そう言えば・・・車中での出来事・・・
「ファラオ これにサインして下さい」
「これは何の用紙なんだ?」
綺麗に折られた紙切れ
しかもサインする所以外は隠されている
相手がイシズなのだ何の疑いも無く遊戯はサインしてしまったのだ
あの時の紙が・・・
上手くイシズの手に転がされている気がする
暫くして社長室に来たモクバと磯野と広報部長
今尚抱き抱えられている遊戯
その後記者会見の日程や結婚式の日取り
はたまた新婚旅行先の話し合い
きっと暫くは社長業は開店休業事態になるだろう
暫くは海馬の怒鳴り声も聞かなくて済むだろう
各々の気持ちが飛び交う中
「ファラオ 御子の父親があのような男でもいいのですか?」
「仕方が無いぜ アイツしかこの子に父親になれる奴なんて居ないからな
それにオレもアイツ以外イヤだしな」
嬉しそうな遊戯にイシズは、心が温まる思いがした
ファラオ御幸せになって下さいね
「御子が誕生しましたら暫くの間御世話をさせて下さいね」
「ははは・・・海馬が許してくれたらな」