紅玉-至高の宝-4
温かい感触に息苦しい思い。
自由に動かない躯に何かしら重しでも乗っている感覚。
縛られ拷問にでも遭っている様な感じがしてくる。
目を開けるのが怖い・・・もし本当に拷問を受けている最中なら・・・
現実逃避をしたくなる。
そう思いながらも『現実を確認しないと・・・』と言う思いに狩られ目を開けてみれば。
「!!!!!!!」
思わず大声を出しそうになる口を両手で塞ぐ。
目の前には、瀬人の寝顔。
しかも真直・・・遊戯の心臓は、爆発しそうな程早い脈を打っている。
(何で!!瀬人様が・・・)
そう思い夕べの事を振り返る。
アア・・・ソウダ不機嫌ナ瀬人様ニ監禁サレタンダ・・・
何度扉を叩こうが開けて貰えず遊戯は、瀬人の部屋の隅で眠ってしまったのだ。
今は、瞼に隠された蒼い瞳が怒りに燃えていた時(何て綺麗なんだろう・・・)って思った。
怖さより彼が自分に向けた怒りに嬉しさがこみあげて来た。
自分だけを写し自分だけを求める言葉を紡がれ何と心地良かった事か。
彼の傍に居てもイイんだ。彼の傍で存在していても良いんだ。そう思えた。
瀬人の顔に触れたい。只の従者が主である皇帝の顔に触れるなんて怖れ多い事だが触れてみたい。
だがココで遊戯は、我に返ってしまう。
(従者が主に触れるなんて怖れ多いけど主とベッドを共にするなんて更に怖れ多いだろ!!!!)
しかし逃れ様にも瀬人に抱きしめられていて身動きがとれない。
何とか身を捩り脱出を試みるが逃がせまいと更に拘束がキツクなり先程まで以上に瀬人の体温を傍で感じて
しまう。
規則正しい心音を耳にすると何故か安心するのだけど傍に感じる体温が何故か恥かしく遊戯の顔や首が赤く
染まってしまう。
(瀬人様は、オレの事どう思ってるのだろう?『特別』だと思ってくれているのかな?)
背中に感じていた瀬人の両腕。その両腕の片方が背中を伝いお尻の方へと移動する。
「!!!!」
下肢を密着させられ遊戯の羞恥心に更なる火が点る。
(これ以上変な事されたら瀬人様の事正面から見れなくなる・・・)
しかも寝ているのに何故こんなに腕力があるのだろう?
もしかして狸寝入り?
そう思い瀬人の顔を見つめてしまう。
(綺麗な顔だよな・・・鼻筋が通ってて・・・
こう言う顔を眉目秀麗って言うんだよな。長身で文武両道・・・性格には、多少なりと問題があるけど何事
にも一途だし・・・
きっと瀬人様は、結婚とかしたら御妃様を大切にされるタイプなんだろう)
何だか胸を締め付けられる様な感じがし息苦しい。
寂しさを感じる。
無意識の内に遊戯は、自ら瀬人に寄り添い瀬人の体臭を・・・体温を更に感じ取る。
どれだけの間そうしていたのだろう。
遊戯の体勢からでは、時間を確認する事が出来ない。ただ微かに部屋が明るくなってきた様に感じられる。
そして下肢に感じる違和感。
瀬人の男根が遊戯の下肢に当たるのだ。
(えええ!!!!何で瀬人様のがオレに当たるんだ???)
さっきまでナリを潜めていた瀬人の男根。
遊戯の脳裏に『犯される』と言う言葉が浮かんでくる。
(そっ・・・そんな事は、絶対に無い!!オレも瀬人様も男なんだぞ!!非ィ生産的な事を瀬人様がする
筈が無い!!)
しかし下肢に当たるモノは、紛れも無く自分も持っている男根。
焦りと恥かしさから真ともな判断が出来ない。
(うううう・・・・こんな時ってどうすればいいんだ??)
逃げ様にも拘束されて逃げられず。焦りにより更なるパニック状態に陥る。
目まぐるしく駆け廻る思考に着いて行けない・・・
余りに焦る遊戯だが瀬人は、一向にそれ以上の行動は、見せない。
暫くすると瀬人の瞼がピクピクと反応する。
それを見て顔を真っ赤にする遊戯。
瀬人の瞼がゆっくり開かれ見える蒼い瞳にドキドキする。
霞む意識の中で瀬人が目にしたのは、抱きしめられ胸元で真っ赤な顔をし頬を膨らませた遊戯の顔。
「おっ・・・おはよう御座います・・・」
「ああ おはよう」
モゾモゾと動きながら
「瀬人様・・・あの・・・離してもらえませんか??」
「? 何故」
問われ困った様な顔を見せる遊戯が余りにも可愛い。
「・・・当たってるんです・・・」
小声で言う遊戯。
何が当たっているのか解らない瀬人。
だが直に何が当たっているのか思い当たると遊戯の手を掴み自分の股間に持って行く。
「貴様に当たっているのは、コレの事か?」
触れる固いモノ・・・これ以上は、無理と言わんばかりに真っ赤になり肯く遊戯。
早く手を離して欲しく自分の元に引き戻そうとするが瀬人は、それを許さないと言わんばかりに遊戯の手を
押し当ててくる。
(恥かしい・・・)
そんな思いに狩られる遊戯。
「貴様も男なら朝立ちぐらいするだろう?」
遊戯の反応が楽しいのか瀬人は、クスクスと笑うが遊戯は、首を左右に振るばかり。
(朝立ちって何だ?男は、皆 朝になるとアソコがこんなになるのか?性欲と関係ないのか?)
朝立ちなんて経験が無い遊戯。男根が性欲で立つ事は、知っていても何もしていない朝から立つなんて事
を知らない。
「貴様もしかして朝立ちをした事が無いのか?」
赤く染まった顔がコクンコクンと縦に振られる。
「男のココは、性欲以外にも立つ事があるのだが・・・夢精は、?吐精は?」
(ムセイって何だ?トセイ・・・???)
目に見えぬクエスチョンマークを掲げる遊戯に
(コイツには、本当に何も知らないのか?恋愛沙汰に疎いのは、気が付いていたが性にまで疎いとは・・・)
では、自分が遊戯の最初の男になるかもしれない。
そう思いは、するもののアル意味無垢な遊戯を手に入れた全ての人間全ての人間が遊戯にとって初めての
相手になる可能性を秘めている。
「精子は、知っているな?」
幾ら無垢でもそれぐらい知っているだろう・・・と思っていると縦に首が動いた。流石にこれも《知らない》と
言われたらどうしようかと思った。
教える事が出来ても教えている最中に遊戯を襲ってしまう可能性があるからだ。
「瀬人様・・・もう・・・離して・・・仕事しないと・・・」
+++++
食間に向う遊戯。
今朝も自室で朝食をとる言う瀬人。
朝食とは、言え食間には、綺麗も盛り付けられた食べ物が所狭しと用意されている。
贅沢な話しだがどんなに食べ物を並べられていても手に付けるのは、極僅か・・・残りは、後宮の女達が
食べるか使用人が食べる。
残りは、家畜の餌になったり廃棄されたり・・・
しかしそんな事言ったって全てを食べきる事なんて出来ない。食卓に並べるなら必要最低限でいいと思う。
瀬人の食事を給仕の者と用意しながらそう思いう。
瀬人の自室に並べられた朝食。遊戯は、瀬人に催促される前に彼の傍に行き取り皿に彼の横に座る。
「ほ〜今朝は、貴様から俺の隣に座ってくるとは」
催促しないと座ってくれないと思っていただけに嬉しい誤算である。
「無駄口言う前に食事をとってくれ」
恥かしいが自分から瀬人の口元に食べ物を運ぶ。
(ククク・・・何時か貴様自ら俺の膝の上に座り給仕をするようにしてやろう・・・)
当然それは、朝も夜も含めての事だ。
食事を終え瀬人は、公務の為別室に向う。
遊戯は、居なくなった瀬人の部屋の片付けを行い空いた時間は、読書にあてる。
(そう言えば もうそろそろ部屋の花を変えないと・・・)
3日おきに瀬人の部屋の花を生けかえる様にしている。
花を生ける事によって殺風景な部屋も少しは、ましになるだろう。
そう思いながら遊戯は、庭師の元へと行った。
今迄一度も生けた花を瀬人は、あれこれと言った事は、無い。多分気付いてないのだろうと思っていたが
瀬人は、花の存在に既に気が付いている。ただ口に出して言わないだけだ。
瀬人にしてみれば遊戯が自分の部屋に四六時中居る方が花があるより断然いいのに決まっている。
庭に咲き誇る花々。庭師から花を数本切る事を承諾され遊戯は、どの花を瀬人の部屋に飾るか迷っていた。
花に手を伸ばした時、今朝の出来事を思い出す。
(瀬人様は、オレの事どう思ってるんだ?
食事中オレの指や掌を舐めたり今朝だって自分の固くなったモノを衣服越しとは、言え触らせたり・・・
何度も抱きしめたり・・・
「俺の傍にいろ」「俺だけを見ていろ」って・・・まるでプロポーズみたいな言葉を言ったり
普通あんな事されたら嫌悪感を感じるもんだよな・・・でもオレそんなの感じない・・・寧ろ・・・)
息苦しいまでにドキドキしてくる胸。でもそれは、何故か心地イイ。
(嬉しいと思ってる。
あの蒼い瞳に写されるのは、嫌じゃない・・・どんな感情でもあの蒼い瞳に写されていたい。
もしかしてオレ瀬人様の事・・・)
昔誰かに言われた。
『誰かを好きになると胸がギュ〜と締め付けられる想いをしたり、その人の事を想えば想う程甘い気持ちになり
とても心地良く感じるんだよ』
って・・・その時自分は、何て言ったんだろう?
オレモシカシテ瀬人様ノ事好きナンダロウカ?
胸に甘い感情がとり止めも無く湧き起る。それは、苦しくもあり気持ちがイイ。
そんな遊戯の元に一陣の風が通り過ぎる。
何処か懐かしさを感じる風。
その風が何故か自分を誘い呼んでいる様に感じ遊戯は、風に導かれるまま無意識に足を進めた。
遊戯が一度も訪れた事が無い場所に辿りつく。
(ココは、厩舎?何故オレは、こんな所に?)
馬に乗りたいと思ったワケでは、無いし遊戯自身厩舎のある場所なんて知らない。
それでも足が勝手に動き遊戯を厩舎内に連れて行く。
数頭の馬が飼育されおりどの馬も毛並みがいい。
しかしその中で1頭目を引く馬が居た。
黒い毛並みの馬。
その馬がジーと遊戯の方を見つめている。声にならない声で「こっちに来て」と言うかのように・・・
遊戯が黒馬に近付き触れた瞬間何かが弾けた様な衝撃を受ける。
「オレは・・・一体・・・マハード?」
++++
遊戯が厩舎に行く少し前。
「瀬人様 ウィザース国より親書が届いています。」
(ウィザース国・・・遊戯を取り戻す為に動き出したか?)
近衛隊隊長が深々と頭を下げ親書の乗ったトレーを高々と掲げながら瀬人の前で膝まつき差し出す。
先日遊戯に近付いた老人の事を調べさせたら直に何者か判明した。
ウィザース国宰相シモン・・・先王からウィザース国王に仕える知恵者。
瀬人は、親書を受け取り書かれている内容に目を通す。
遊戯の兄ユギが国王となる戴冠式への招待状。
(俺がカイバ帝国を不在にしている間に遊戯を取り戻す気か・・・)
瀬人が遊戯を連れてウィザース国に向う筈は、無い。だったら遊戯から瀬人を引き離し取り戻すには、
千載一隅この期を逃せば取り戻せない。
大方シモンの提案なんだろう・・・
(しかし戴冠式に双子の弟遊戯が出席しなければ怪しまれる筈・・・どう取り繕うつもりなのか見てみたい
気もするが俺が一度手に入れたモノを簡単に手放すと思うな)
「瀬人様ウィザース国から何と?」
内容をなかなか話さない瀬人に痺れを切らせた重臣が訊ねると瀬人は、口角を上げながら
「ウィザース国でユギ王子が正式な国王になるそうだ。その戴冠式に招待されただけの事、
ウィザース国には、皇帝の名代としてモクバに行って貰う」
「しかし・・・ウィザース国王家は、古えよりつづく名門中の名門・・・皇帝直々の方が・・・」
「フン・・・如何に古えよりつづこうがそんなの関係無い」
「しかし・・・」
「煩い 何度も同じ事を言わせるな」
遊戯の事も調べさせたが先代国王を凌ぐ強い魔力を内に秘めもっとも強力な魔力を持ち国を治めた
初代王アテムの生まれ変わりとまで囁かれていると言うが・・・
(そんなヤツが何故俺の手に堕た?遊戯自身油断したからか?それとも運が俺に味方したか・・・)
遊戯が自分の手に堕た時の事を思い浮かべる。
あの紅い瞳に魅入られ当人の承諾無しに記憶を奪い手に入れた。
まぁそんな事は、どうでもいいヤツが俺の傍に居る事は、事実なのだか。
至高の宝・・・ウィザース国にとっても俺にとっても・・・
遊戯が俺の元から離れられない様にあの華奢な躰に俺を覚えさせるか?
(だが自分が欲しいのは、躰だけじゃない心も一緒に欲しい・・・)
遊戯の全てが欲しい・・・
遊戯を思えば心が甘く騒がしくなる。だがそれは、不愉快では無く心地イイ。
その時、吹いた風・・・
気に留める必要も無い風なのに何故か瀬人の胸を騒がさせる。
嫌な感じがする風。
瀬人の脳裏に浮かんだのは、遊戯の姿・・・
(まさか遊戯の身に何か・・・)
椅子から立ちあがる瀬人。
「瀬人様?」
「審議を一時中断する。再開は、午後からだ」
それだけを言い残し瀬人は、公務を行う部屋を出て行った。
「また 遊戯の所か?」
「遊戯が来てから瀬人様は、腑抜けになられた。嘆かわしい」
「しかしその反面子作りには、精を出されていると聞くが・・・」
「一体 遊戯は、何処の馬の骨か?」
いろいろ口煩く噂をしているが遊戯の存在は、城内でも賛否両論なのだ。
瀬人は、遊戯を探し彼の部屋へと向ったがそこには、誰も居らず。
遊戯が行きそうな所は、一通り見て回った。
(クソ〜遊戯何処に居る?)
瀬人が遊戯を探していると聞いた使用人が遊戯が厩舎に居る事を告げると瀬人は、急ぎ厩舎へと向った。