紅玉-至高の宝-9


「ねぇ・・・君は、何処に居るの?僕の問いかけに応えて」

 

聞こえて来る祈り。

その祈りは、懐かしさを感じさせる。

 

「オレは、ココに居るぜ」

 

だから応えてしまう。

どんなに暗い場所でも・・・

 

「ああ・・・やっと逢えた。」

 

自分と良く似た相手。

でも自分と異なる雰囲気を持った相手。

優しい腕に抱きしめられる。

気持ちが良い。

 

「そうか・・・そうなんだ・・・

僕は、必ず君に会いに行くから・・・」

 

少し悲しげな表情を浮かべた相手。

しかしその後優しげに微笑まれ。

 

「ああ・・・待ってる」

 

としか言えなかった。

 

 

++++++++

 

「彼が僕の呼びかけに応じてくれたよ」

ウィザース国王家の者が祈りを捧げる神聖な場所で自分と共に来ている者に言うと

「ユギ様!!」

「彼は、記憶を消されたんじゃ無い。記憶を封じられているんだ。

確かに強い魔力を持った相手だったんだろうけど彼の力で解けないワケじゃない」

「でしたら何故?」

「彼を想う相手の強い心が魔力を解かせないんだ」

もしかしたら遊戯は、記憶を消され囚われ酷い目に遭わされているんじゃ?と懸念していたけどそれは、違った。

彼は、誰かに愛され大切にされているのだ。

でも記憶が無い事に代わりは、無い。

この目で最愛なる弟の現状を見たい。

「戴冠式の後、直にってワケには、いかないけどそれでも早い段階でカイバ帝国に訪問するから準備だけでも

しておいて」

遊戯の背後に微かに見えた白いドラゴンの幻影。

あのドラゴンは、カイバ帝国を守護するモンスターに間違いない・・・

だとしたら彼は・・・遊戯は、シモンの報告通りカイバ帝国にいる。

しかしあのドラゴンは、伝説とされアテムの命(めい)によって深き眠りにある筈、それが目覚めているとしたら

初代王アテムの悲しき話しの終焉が近付いてる証。

初代王アテムは、最愛なる人を亡くし悲しみの中、国を建国した。

そして最愛の人が生まれ変わる事を祈り白き幻獣を最愛なる人の肉体と魂を守らせる為に眠らせた。

『もし我が願いが叶うなら・・・来世でまた逢おう・・・その時こそお前の気持ちに応えたい・・・』

本当に転生なんてあるのならアテム王は、前世で成し遂げられなかった想いを胸に最愛なる人の魂と目覚める

筈。

そして互いに想い逢っていた2人は、結ばれる筈なんだ。

初代王に瓜二つとされている遊戯がもしかしたらアテム王の魂を受け継いでいる可能性が高い。

それなら相手は・・・?

アテム王が愛した相手の事は、アテム王自身とそして共に闘った同士の心に中に眠りどんな相手だったのか

不明のままなのだ。

 

(それでもね僕がどんなに遊ちゃんの事で心配したか遊ちゃんの肉親として瀬人皇帝に一言言ってやるんだから!!)

 

ユギの心に芽生えた決意。

そしてそれ以外にも心を過る不安。

「ユギ様?」

「何か否な予感がするんだ。遊ちゃんの身に何か起きそうな気がする・・・」

 

 

 

+++++++++

 

「・・・ん・・・」

揺らぐ暗闇。それに代わってウッスラと広がる光。

嗅ぎなれた匂い。微かに聞こえる規則正しい音・・・音・・・多分鼓動だろう。

・・・・??・・・・

何故???

 

目を開けて心臓が止まるかと思った。

瀬人の横顔が近くで見えたのだ。

 

(この人は、オレをショック死させる気なのか!!)

 

大声を出しては、マズイと思い口元を手で隠し激しく動く心臓を落ち着かせようと試みる。

瀬人は、遊戯を膝の上で横抱きで抱きながら読書中。

そんな彼に遊戯は、お茶を出そうと思い躰を動かせば当然の事ながら瀬人に気付かれてしまい。

「やっと目が覚めたか」

と声を掛けられた。

「瀬人様 御公務は?」

「今日の分は、終わった。」

終わった・・・と言うより能率が上がらないのと新婚なのだ最愛の人と一緒に居たいと言う気持ちから終わらせた

と言う方が正しいのかもしれない。

「お・・・お茶の用意するから・・・」

離して欲しい・・・

そう言いたかったが瀬人の真摯な瞳が遊戯を捕らえ身動きがとれない。

「遊戯 この頬は、どうした?少し腫れている様に見えるが」

赤みは、さしてないが少し腫れている様に見える頬。

その頬を優しく触れ撫でれば

「机の角で打ったんだぜ」

と返す。

本当は、後宮に居る姫君に打たれた。

でもそんな事言えば姫の身が危ないし姫の祖国だってどんな目に遭うか解らない。

言葉は、慎重に選び時と場合によっては、嘘をつかなければならない。

だがそんな遊戯の心境を察し自分から視線を外している遊戯の顔を自分に向けさせる。

「遊戯 俺に嘘をつくな。」

「嘘じゃない・・・」

「机の角で打ったのなら青アザが出来ているはずだ」

「嘘・・・じゃない・・・」

頑なに〔机の角で打った〕と言い張る遊戯に瀬人は、内心溜息を吐くしかなかった。

多分どんなに問い詰めても彼は、嘘をつき通すだろうから。

自分にとって晴れやか日にこんな事で険悪になりたくない。だから・・・

「解った貴様の言葉を信じ様。しかしそれと引き換えに貴様のこの愛くるしい唇に触れさせろ・・・

否 貴様からこの唇で俺の唇に触れて来い。」

何て変な交換条件を付き付けて来るのだろう。

そう思いながらもキス一つで信じて貰えるなら・・・

そう思い躰を起し瀬人の唇に触れ様と試みるが恥かしい。

恥かしさから触れる事が出来ない。初めてなのだから・・・

「どうした?さっさと触れて来い」

微かに口角を上げ楽しげに言うが瀬人の心中は、穏やかじゃない。

間近に見える遊戯の顔。それにどれだけ心臓が高鳴るか。

そして意を決した遊戯の唇が瀬人の唇に軽く触れ離れて行く。

遊戯にしてみれば精一杯のキスだったが瀬人にしてみれば些か不満の残るキス。

だから離れて行こうとする遊戯の後頭部を掴み引き寄せ重ねあわせる。

薄い唇を割り固く閉ざされた歯列を舐め開けるように促すがそれでも開かれない。

やむなく遊戯の小さな鼻を摘まみ口からの呼吸を促す。

息苦しさの余り歯列が開かれそこから舌を差し込み口腔内を舐めまわし奥で怯える様に隠れている遊戯の

舌に己の舌を絡めさせる。

(甘い・・・)

幾人の女とキスをしてきたが甘いと感じた事なんて1度たりとて無かった。

それなのに男である遊戯とのキスがこんなに甘いと感じるとは、瀬人自身驚いていた。

そしてもっともっと味わいたいと思った。

瀬人のキスは、激しく彼の膝の上で横抱きになっていた遊戯の躰は、ズリ落ちソファの上。

しかも瀬人が圧し掛かる様な格好になっている。

何秒ぐらい否何分かもしれない長く感じるキス。

初めてキスされた遊戯には、既に限界が近付いていた。

頭を振り逃れ様ともがく遊戯に逃さないと更に拘束を強いる瀬人。

それでも遊戯の異変に気付き少し離れれば荒い息使いで必死に酸素を取り入れ様と口をパクパクさせ

薄い胸板がせわしなく上下している。

口角を流れる唾液を拭ってやりながら

「貴様 もしかしてキスは、初めてなのか?」

間直で問えば潤んだ瞳を瀬人に向けながら縦に肯く。

「ココに・・・来て初めて・・・それ以前・・・なんて・・・」

知らない・・・記憶を無くす前なんて知らない。

(確かに記憶を無くす前なんて知るわけないよな。ココに来てからは、俺の傍に居たのだ当然誰も遊戯に触れて

ない筈)

呼吸を取り入れる為にせわしなく動く小さな口。

その口にもう一度触れ様と近付いた時、遊戯が自分で自分の唇を手で覆い隠してしまう。

「ハァハァ・・・瀬人様に・・・聞きたい事・・・ある・・・」

今尚呼吸が整わない遊戯だがどうしても瀬人に聞きたい事があった。

「何だ?」

唇に触れる事を邪魔されて幾分不機嫌な瀬人。

「オレ・・・瀬人様と結婚したのか??」

「な・・・」

予想だにもしなかった問いに瀬人は、驚きを隠せない。

そんな瀬人をどう受け止めたのか遊戯は、

「嘘だよな・・・瀬人様もオレも男だし非ィ生産的だしオレ自身身元不明だし」

第一瀬人様と釣り合いが取れてない。

勝手に解釈をし安堵する遊戯だったが

「誰がそんな事を言った?」

「それは、言えないぜ。第一そんな戯言なんだし・・・」

「戯言では、無い」

「え?」

戯言では、無い?じゃぁ・・・

「真実だ。時期が来れば貴様に言うつもりだった。貴様は、この俺の寵妃になったんだ」

「何時?」

そんな事承諾した覚えなんて無い。

「今朝、貴様が着ていた衣装は、カイバ帝国に嫁いで来た花嫁が身に纏う婚礼の衣装。そして俺が身に

纏っていたのは、花婿の衣装だ。」

「でも・・・神殿とかで誓いの言葉なんて言ってないし第一オレは、そんな事承諾した覚えが無い」

「貴様に内緒でやったのだ。それに急だったので色々省かせてもらった。貴様には、拒否権なんて無いが俺が

貴様にプロポーズをしてから盛大に婚姻の儀を執り行うつもりだったのだ。」

色々省き過ぎだと思う・・・

「で・・・でも・・・オレも瀬人様も男だぜ!!」

「それがどうした?」

「世継ぎの問題とか・・・」

「そんなのモクバが居るからどうとでもなる」

「民に何て言うつもりなんだ?『男同士で結婚しました』って言うつもりなのか?」

「そうだと言ったら?」

貴様の出生地を知れば誰も何も言わない。

 

ウィザース王家は、どの王家よりも特別な存在。

他の王家は、隣国との同盟を結んだり強めたりする為に自分の国の姫を嫁がせるがウィザース国には、そう

言った事が全くないのだ。

隣国から姫を貰う事も出す事もウィザース国の歴史には、一度たりともない。

そしてそんなウィザース国と属国にしたい国が兵を上げた時には、一夜にして考えが変るとも言われている。

何故か一様に

「神々しい光を身に纏った人物が見なれない聖獣を3体連れて現れた」

と口々に言うのだ。馬鹿馬鹿しい事だがそんな話しが1つ2つでは、無い。その神々しい光を見た者は、戦意

喪失になってしまうのだ。

神に愛され神に護られた国ウィザース。

だが遊戯がウィザース国出身だと言う事は、当の本人自身知らない。

もし遊戯の出身地を国民に知らしとしようそれは、廻り廻って遊戯の耳に入る事間違い無し。

更に遊戯の行方がウィザース国に知れる事は、確実なのだ。

 

「あっ・・・でも・・・」

「煩い。もう黙っていろ俺は、貴様を感じたい」

何か言いかけた遊戯を制し瀬人は、また遊戯の唇に自分の唇を重ねた。

多分彼に何を言っても聞きいれてくれないと悟った遊戯は、その口付けを甘んじて受け入れる事にした。

受け入れたと言っても上手く鼻からの息継ぎが出来ないので何度も唇を解放されながらだが・・・

 

甘い唇を堪能し過ぎた所為か遊戯の意識が朦朧としている。

何処を見ているのか解らない潤んだ紅い瞳。

朱に染まった頬。

だらしなく開け放たれた唇。

その口角から流れる唾液。

投げ出された四肢。

その全てが瀬人が施した口付けによるモノ。

瀬人の気持ちが昂揚してくる。

この躰を堪能する事が出来たら・・・

甘く啼き声を上げる唇。

艶めかしく怪しく揺れ動く裸体。

狭く絡め全てを奪おうと煽動する内肉。

想像するだけでもオスが反応してしまう。

だが処女であろう遊戯の同意無くして事に及べば後々に不利。

だから瀬人は、意識が朦朧としている遊戯に問う事にした。

この状況なら遊戯は、瀬人にとって有利な返事をしてくれると思ったから。

「遊戯 俺は、貴様と繋がりたい・・・一つになりたいのだ。俺を貴様の中に受け入れてくれるな?」

耳元で熱く囁かれる。

瀬人のその問いに一瞬だがビックと反応した後、遊戯の首が左右に振られた。

否定をする行動・・・

瀬人は、何かの見間違いと思い再度問うがやはり首は、左右に振られてしまう。

「貴様 俺と繋がりたいくないのか?」

今度は、縦に振られる首に正直ショックを受ける。

「何故?」

ムキになって問えば

「怖いから・・・」

小声で返される。

遊戯にしてみればSEXなんて初めて行為なのだ。

どんな事をされるか解らない。

しかも女では、無い自分とどうやって繋がると言うのだろう?

途切れ途切れの思考で何とか答えを導き出そうとする。

遊戯が言った「怖いから・・・」に対し瀬人は、心にグッと来るもの感じながら次第に高鳴る鼓動に自分が

どれだけ遊戯にメロメロなのか思い知る。

そして眼下にいる遊戯に対し更なる愛おしさが募って行くのだった。


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