顔を見ぬ婚約者殿-4-


初めてのキス・・・

だがそれは、受け入れてもらえなかった。

遊星の掌がジャックの唇に押し当てられたのだ。

「ゆう・・・」

困惑の色を浮かべて遊星を見るジャック。

そのジャックを戸惑いの表情で見る遊星。

「・・・ダメだ・・・お前みたいな奴がオレなんかに触れるな・・・」

ジャックとは、住む世界が違う。

どんなに彼の事を想っていても。

 

遊星は、抱きしめられている躰を捩りジャックの腕から逃れ様と藻掻く。

だが力の差は、歴然。どんなに藻掻こうが彼が腕に力を込めたらたやすく阻止されてしまうのだ。

【貴女には、結婚当日まで清らかなままで居て貰いたい。さもなくばサテライトに居る貴女の仲間の身の保証

は、有りません。】

収容所で言われた言葉。

どんな相手に引き渡されるのか解らない。

奴隷の様な扱いを受けるかもしれない。

まぁサテライトの者を嫁にしようと言うのだマトモナ神経の持ち主では、ないのだろう。

それともペットとして飼われているサテライトの男との交尾か・・・

シティの上層階級では、暗黙の元で人身売買で出される容姿端麗なサテライトの男や女を飼っていると言う

噂が真しやかに囁かれている。

実際行方不明者も出ているがサテライトで人一人行方不明になるのは、珍しくも無い。

人身売買で売られたのか臓器売買で海の藻屑となってしまったのか・・・そんな事誰も気に留めない。

明日は、我が身かもしれないからだ。

 

「離せジャック・・・」

遊星の抵抗は、ジャックに宿った嫉妬に更なる油を注いだ。

「遊星 お前は、誰の者になるんだ?言え!!」

(菫の様な綺麗な瞳が怒りに彩られている・・・)

何処か冷静な心がジャックの瞳に宿る焔が見えた様に思えた。

その焔が今自分に向けられている・・・その事に何故か喜びを感じてしまう。

そして宿してはならない期待を宿してしまう。

(ジャックは、オレの事が好きなのだろうか・・・オレは、彼を好きになっていいのだろうか?)

だがそれは、夢でしかない事。身分が違う。上層階級シティの中でもっとも最上階級トップスに居るジャックと

最下層サテライトに居る自分とでは、雲泥の差が有るのだ。

「そんなの知らない!!それにオレが誰と結婚しようがお前に関係無いだろ?」

ジャックの事を何時の間にか好きになっていた。

その心が悲鳴を上げている。

その心の叫びが遊星の瞳から流れ落ちる。

苦しくて苦しくて仕方が無い。

「関係無いだと!!関係なんて大有りだ!!お前は、俺のモノだ。俺のモノが勝手に見知らぬ相手の元へ

行こうとしているのだ許せるワケないだろう!!」

そこまで自分で言っておきながら少しばかり焦りは、したものの一度口を吐いて出てしまった言葉は、後戻り

なんで出来る筈が無いので腹を決め

「遊星 俺のモノになれ。そうすればお前の望みを全て叶えてやる」

遊星が探しているカードだって一緒に探してやる。

顔のマーカーを消す事は、出来ないが自分の力が及ぶ範囲・・・否 範囲以外であっても叶えてやりたい。

そう思ったのだ。

ジャックからの急な告白に遊星は、どう反応したらいいのか解らなかった。

夢の中に居る様な気持ちだった。

自分にとって都合の良い夢・・・もし夢ならば覚めないで欲しい。

「ジャック・・・オレみたいな下級層の奴にそんな言葉を簡単に言うんじゃない・・・自惚れてしまうだろう?

お前は、目新しいモノに興味を抱き欲する子供と同じなんだ。興味が無くなれば・・・」

オレは、お払い箱・・・最後まで言えなかった。

自分で言っておきながら虚しさと悲しさで胸が一杯になったから・・・

「この呆気者!!俺がそんな安っぽい感で流されるとでも思っているのか?俺は、本気だ。何故それに気が

付かない?」

息が出来なくなるぐらい力強く抱きしめられる。

「ジャック・・・お前は、馬鹿だオレなんかを選ぶなんて・・・」

ジャックの腕に応える様に遊星も又、ジャックに力強く抱きついた。

 

 

 

+++++

 

(まさかこんな事になるなんて・・・)

隣に眠る遊星の髪を梳きながらボンヤリ宙を見ていた。

 

遊星が自分から離れる事を怖れ心に宿した相手に嫉妬し感情のまま言い合いをした。

結局遊星の婚約者の事を聞く事が出来なかったがベッドの中で遊星の心に居る相手が誰なのか解った時、

何とも言い様が無い感情に支配された。

(まさか遊星の心に居たのが俺だったなんて・・・)

俺が俺自身に嫉妬していたとは・・・

まるで御笑い種だ。だがそれでも自分の心は、満たされた。

そして遊星が探しているカード《スターダスト・ドラゴン》・・・

そのカードの在りかをジャックは、知っていた。

(まさか本来の持ち主が彼女だとは、思わなかった。)

綺麗なカードで一目見て気に入りジャックは、自分のデッキの中に入れていたのだ。

ただ一度もデュエルで使用しなかっただけ。

 

隣で眠る遊星そんな彼女の寝顔を見ながら遊星の婚約者から彼女を奪う事を心に決めた。

彼女以外自分に相応しい相手なんていないのだから。

 

ホンの僅かな休息時間の時・・・

どうやって遊星をその婚約者から奪うか思考錯誤したが遊星の口から

「来週 相手に会う事になっている」

「来週? 来週の何時だ。」

「23日 11時頃童実野帝国ホテルって聞いてる。」

童実野帝国ホテルと名ばかりの特別階級の者だけが利用出来るホテルだ。

そんなホテルを利用出来る人間は、限られてくる。

遊星の相手は、余ほどの実力者。

ややこしい事になるのは,必死。だが一度手に入れると決めたのだ。諦めるつもりなんて毛頭にない。

 

「遊星 必ずお前を手に入れてみせる」

眠る遊星の額に口付けを落し優しく壊れモノを扱うかのように抱きしめた。

 


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