捕われて-2-
目の前で砕け散るジャンクウォーリアー。
ディスクに表示されているLPが無情にも『0』を指している。
目の前で起きた事実に遊星は、床に膝間づく。
完敗だった。
呆然とする遊星に駆け寄るラリー。
「大丈夫。遊星?」
「ああ・・・何とか・・・」
自分に挑んでて来た者達が地面に膝間づく姿は、何度と無く見て来た。
まさか自分がその者達と同じ様に地面に膝間づく事になるとは、予想だに出来なかった。
こんなに屈辱的だっただなんて・・・。
ヤハリ・・・コノ日ニ勝ツナンテ出来ナイ・・・
両親の月命日に勝てた事なんて無い。
それを知っていたから避けていたのに・・・。
「遊星来い。」
少し離れた場所から自分を見下ろすパープルの瞳。
それが冷たく感じられた。
「ちょっと!!今回のデュエルは、無効だよ!!デュエルをしたくないと言っている遊星を人質まで取って
無理矢理デュエルさせたんだからフェアじゃない!!」
「本当に嫌だったのなら人質を見捨ててでも帰ればいいだけの事。
遊星は、それをせずにデュエルをやった。しかもアンティを言い出したのは、遊星の方だ。」
確かにアンティは、遊星の方からだったがそれを言わせる為に・・・自分とのデュエルをさせるために人質を
取ると言う卑劣な行為に及んだのだ。
それが如何に卑怯で卑劣な行為だと解っていても・・・。
「遊星何度も言わせるな。来い。」
命令口調。
受け入れたくないのに・・・でもこのデュエルは、アンティなのだ。
それに自分は、デュエリスト。
デュエリストとしての誇りは、持って居たい。持ち続けて居たい。
それが身を売る行為だとしても。
遊星は、ゆっくりと立ち上がり膝に付いた土埃を払い落し自分の荷物を持ちながら。
「遊星、行く事無いよ。今回のデュエルは、無効だよ。」
「いいんだ。ラリー心配かけてゴメンね。」
優しく微笑む遊星の顔に何の迷いも無かった。
その笑みにラリーは、思わず見惚れてしまう。
だが顔を上げて男を見据えている遊星の瞳は、険しく優しさなんて微塵も感じさせなかった。
そして一歩一歩自分の足で男に向う。
その足取りにも何の迷いも乗せる事無く。
男の前で立ち止まり男を見上げる。
「ククク・・・イイ目をしている。それでこそクイーン。この俺に相応しい女だ。」
物怖じしない遊星に男は、嬉しそうにしている。
「御託は、いい。さっさと用件を済ませてもらいたい。」
何をされるかなんて容易に想像出来る。
好きな相手ならいざ知らず何とも思っていない相手に自分の躰を好きな様に嬲られる。
それがどんなに悍ましい事か想像なんてしたくない。
それでも自分で選んだ事、この男がラリーに言った様に嫌ならラリーを捨てればいい。
それをしなかったのは、友情を選んだのが理由だけじゃなかった。
男の持つ不思議な雰囲気が気になった。
彼がどんなデュエルをするのか気になった。
負けるかもしれない・・・だけどもしかしたら勝てるかもしれない・・・そういう甘い考えも過った。
早く言えば自業自得なのだ。
程無くて手に入れた獲物に男の心は、高鳴っていた。
遊星に勝てる自信が無かったワケでは無い。
寧ろ遊星に勝つためにこの日を選んだのだ。
何故 遊星が月命日に限って負けるのか理由が少し解った。
デュエルをして気が付いたのだが彼女の気が一瞬だけ反れるのだ。
その一瞬の隙をつけば勝てる事が今回解った。
多分遊星自身気が付いていないかもしれない。
「着いて来い。」
そう言うと男は、遊星に触れる事も無く踵を返し歩き出した。
無言のまま遊星は、男の後を着いてく。
男の部下達は、遊星を囲う様に歩く。まるで遊星が逃げない様にする為の壁の如く。
何時の間に用意されていたのか1台の車が廃屋に横付けされいた。
その後部座席に男は、悠然と乗り込み遊星にも乗るように促す。
男に指示されるがまま乗り込んだ後部座席。
男に対する抵抗心故にか距離を空けて座り流れる車窓に目をやる。
だが景色を見ていたワケでは、無い車窓に映る男を見ていた。
男との面識は、全く無い。
しかもこの男は、己の名を名乗らず初対面である遊星をいきなり呼び捨てにしていたのだ。
この界隈で遊星の名前を知らない者は、居ないとは言え大抵の者達は遊星の事を『クイーン』と呼んでいた。
遊星の名前を親友以外の者で名前を呼ばれる事がなかった。
「・・・せ・・・遊星・・・」
「!!」
考え事をしていた所為で男が自分の傍に来ていた事に気が付かなかった。
耳元で名前を呼ばれ背筋を何かが駆け上げって来るのを感じる。
「俺が傍に居ると言うのに何を考えていた?」
服越しとは言え腹部に男の手を感じる。
身を捩り抵抗を試みるがその抵抗も男にとってたいした効果が無い。
寧ろ少し振り向いただけなのに唇を奪われてしまったのだ。
ファースト・キス
しかも触れるだけのような可愛いキスじゃない。
男の舌が遊星の唇を通り歯列や内頬肉を舐めているのだ。
更に奥に入ろうと固く壁の用に聳え立つ歯列を抉じ開けようとしているのだ。
頭を振り逃げ様としたが顎を強く掴まれ痛みの余り逃げる事を忘れてしまう。
無理に抵抗した所為なのか次第に息が辛くなってくる。
否 初めてのキスで呼吸の仕方が解らず息を止めていたのが原因による酸欠で息苦しいのだ。
(ククク・・・そうもっと苦しめ。そうすれば酸素を求め自ずと口を・・・歯列を開ける。)
男の思惑通り遊星は、息苦しさから口を・・・そして歯列を開け酸素を取り入れ様としてきた。
少しの隙間を掻い潜って男の舌が遊星の口腔内に忍び込んだ。
「!!」
縦横無尽に口腔内を犯す存在にどう太刀打ちしていいのか解らない。
息苦しさから酸欠状態に陥り躰から力が抜けて行く。
いったいどれだけの時間唇を貪られた居たのかなんて解らない。
躰に力が入らず荒い呼吸をしたまま遊星は、男の胸に靠れかかっていた。
「あれしきのキスで息切れとは、もしかして初めてだったのか?」
「わ・・・わるい?・・・」
「否 寧ろ多いに結構。俺が与える全てがお前にとって初めてならな。」
近付く男の顔。
それを避け様にも顎を掴まれ上を向けされて動く事が出来ない。
拒む事が出来ずに受け入れる男の唇。
クチュ・・・ピチャ・・・
容赦無く舌を絡められる。
舌を絡めるキスがこんなにヤラシイものだったなんて初めて知った。
トサッ・・・
後部座席のシートに押し倒されてしまう。
「・・・んん・・・ふぅ・・・」
初めてのキスで頭が朦朧としてくる。
だがキスをされている時間は、1回目に比べて短く感じた。
「初めてのキスならば酸欠になるのは、仕方が無い。だが遊星キスをしている最中でも普段と同じ様に鼻で
呼吸すれば酸欠は、防げるものだ。」
「はな・・・で・・・」
一つの単語を息が上がってしまっている状態では一気に言う事が出来ない。
途切れ途切れ熱い吐息を吐き潤んだ瞳を男に向けながらゆっくり言う。
「そうだ。お前は、普段口から呼吸をしているワケでは在るまい。この可愛い鼻で呼吸をしているはずだ。」
男は、遊星の鼻先を摘まみながら軽く遊星の唇に自分の唇を押し当てる。
「まぁ慣れるまで簡単に鼻で呼吸が出来ないかもしれないがこれから先、俺がお前にいろいろと教えてやろう。」
(男の・・・否 この俺を喜ばせ方を・・・お前に刻みつけてやる)
紅潮した顔、潤んだ瞳で自分を見上げる遊星。
「お前のそんな表情を見ていると誘われている気分になる。」
「?」
「解らんのか?罪作りな女だな。」
目線を遊星の顔から下にずらせばセーラー服の裾から覗く黒いタンクトップ。
更にその先に目線をずらすと少し捲れ上がったスカートから覗く細い足。
男のオスが反応してしまいそうになる。
(まさこの俺がこれだけで立つとは・・・それほどまでにこの女に・・・いいだろう遊星に今夜刻みつけてやる)
倒された状態、しかも伸しかかっている男の所為で起きあがれない。
微かに見える車窓。
そこから微かに見えるビルで今自分が繁華街辺りに連れて来られている事が想像出来る。
(繁華街・・・この男がチームに属している者なら・・・この一帯を仕切っているのは・・・確かサティスファクション
だった筈。)
デュエリストは、遊星の様に個人で活動している者も居ればチームに属している者も居る。
そしてそんなデュエルで大概自分が仕切っている場所を賭けたりしている。
サティスファクションは、最近出来たばかりの新米チームなのにその実力は半端なものじゃない。
だが彼等が狙うのは、シマと呼ばれる縄張りを持ったチームばかり。
サティスファクションのキングと呼ばれる男は、シマにしか興味を抱かないと聞いた。
それ故に遊星の様にシマを持たない者を襲う事は全くしない。
だが遊星は、襲われてしまった。
もしかしたらサティスファクションでは、無いかもしれない。
他のチームが勝手に入り込んで暴れているだけかもしれない。