捕われて-3-
連れてこられた場所を見て遊星は、愕然とした。
『レッド・デーモンズ』と掲げられた看板。
サティスファクションが拠点としているバーだ。
まさか自分を襲い連れて来たのがサティスファクションだっただなんて・・・。
シマを持たないデュエリストを襲わないと噂されているのに・・・噂は、噂でないのか?。
余りの衝撃に動く事が出来ない。
それじゃ・・・今迄自分と一緒に居た男がサティスファクションのリーダーで在りキングと呼ばれている
ジャック・アトラスなのか?
否・・・ジャックは、シマを持たない者には興味が無い筈・・・。
もしかしたら自分は、キングに献上される品なのかもしれない。
だが献上する品に手を出す奴なんているだろうか?
例え幹部だとしてもリーダーに指し出す品に手を出す奴なんて居ない。
だとしたらやはりこの男は・・・信じたくない!信じられない!!。
目の前が霞む様だった。
立ち止まって動こうとしない遊星。
そんな遊星に男は、
「何をしている早く来い。」
戻って来ると遊星の腕を掴み店内に入って行く。
+++
数分前・・・先に戻って来た男の部下が息荒く店内に入って来る。
その部下に他の者達は、
「おい、どうしたんだそんなに息を切らせ」
「なぁお前キングの後を着いて行ったんだろう?デュエルの結果を早く聞かせろよ。」
「まぁ・・・そう急かせるな・・・まず水をくれ・・・」
コップに注がれた水を受け取ると一気に飲み干し。
「流石 俺達のキングだ。圧勝だったぜ。」
「・・・それって・・・」
「手に入れたのか???」
「ええ!!マジ?!」
その場に居た者達が各々とざわめく。
「もうじきしたらキングが連れて来るからよ〜く拝んどくんだな。」
扉がゆっくりだが開き出したのを確認する。
姿を現したのは、サティスファクションのリーダであり自分達がキングと呼ぶ男。
その男に連れられて入店してきた少女に店内に居た者達は、色めきだつ。
少女は、紺の大きな襟をした白いセーラー服を身に纏い丈の短いスカートに紺の膝丈程のソックスを履き
サテライト女子短期大学付属高校の校章が入ったカバンを持っていた。
しかも噂通りの奇抜なヘアスタイルにオレンジのメッシュ。
その場に居た誰かが、
「キングとうとうクイーンを手中に治められたんですね。」
「これでサティスファクションは、安泰だ!!」
「いや。更なる躍進になるかもしれない。」
「おめでとうございます!!キング」
各々賛辞の言葉を並べている。
そして所々『キング』と言う単語が聞えて来た。
(やっぱり彼がキング、ジャック・アトラスなのね・・・)
「今日は、祝賀だ。多いのに楽しんでくれ!!」
男・・・ジャック・アトラスの言葉に店内では、歓喜の声が所々に上がった。
ジャックは、祝賀の宣言だけすると遊星の腕を引っ張りそのまま外へと出て行った。
それなのに誰一人ジャックと呼び止める者が現れなかった。
これから何が起るのか予測出来ていたので呼び止めるなんて野暮な事をしなかったと言った方
が正解なのかもしれない。
ただ店の片隅でこの光景を面白く無いと感じている者が2人居た事を誰も気が付かなかったが・・・
少し離れた駐車場に止められた車に近付く。
どうやら目の前に止まっている車が彼の所有する車みたいだ。
ジャックは、遊星に助手席に乗るように促す。
遊星は、諍う様な素振りを見せる事も無く助手席に座った。
ジャックも運転席に座るとシートベルトを着用しキーを挿し込むとアクセルを踏み。
助走をせずに勢い良く車を走らせ始めた。
余りにも雑な運転に遊星は、思わず首を竦め小さな悲鳴を上げてしまう。
「可愛い声だな。」
「なっ・・・何て荒い運転なの?事故に繋がるわよ。」
「俺の運転がそんなに怖いか?」
「当たり前でしょ?!私は、交通事故なんかで若くして死にたくないもの」
亡き両親の分まで生きると決めたのだ。こんな事で死んでられない。
「ハハハ・・・安心しろ今迄無事故で来たんだ。」
「今迄が無事故でもこれから先事故を起こさないって保証何処にも無いと思うんだけど」
って言うかこれで無事故って・・・否それ以前にこんな運転方法で今迄セキュリティーの世話になった事が
ないのだろうか?
もし無いのだとしたら上層部に顔見知りが居るか追跡を掻い潜る、もしくは追跡を捲いたのどちらかだろう。
車は、繁華街を抜けシティの中心部へと向う。
何処に向っているのか聞いていない遊星は、流れる車窓を見ながら
「まさか貴方がサティスファクションのリーダーだっただなんて思わなかった。」
呟くように言う。
ジャックの耳に届いているのか居ないのか何の返事も返って来ない。
「サティスファクションは、シマを持たないデュエリストは襲わないと噂で聞いていたけどそれは、噂でしか無かった
のね。」
「幻滅したか?」
「ううん・・・と言えば嘘になるかもしれない。幻滅は、しないまでもショックだった。
でも人材獲得という事で考えれば否な気持ちは、するけど在り得る事かもしれないと思った。」
チームに属さない個人デュエリスト。
その中に優秀な者が居れば欲するのは、当然。
もし自分がチーム・リーダーならそうするかもしれない。
「俺は、そんな理由でお前を狙ったワケでは無い。」
「?」
遊星に「一目惚れをした」とか「俺と付き合って欲しい」と言えたらどんなにいいだろう。
だが恥かしくて、照れ臭くて言えない。だからアンティデュエルなどと姑息な手で遊星を手に入れる事にした。
そして今、告白するチャンスだと言うのに・・・解っているのに口に出す事が出来ない。
「追い追い教えてやる。」
「・・・解った・・・ねぇ今何処に向っているの?」
自分を手に入れた理由が人材獲得で無ければ一体何なのか聞きたいと思うけどきっと訊ねても答えてくれない
かも知れないし無理強いは、したくない。それに何時かは、教えてくれると言うのならそれまで待つしかない。
だから話題を変えてみる。
「俺のマンションだ。お前には、俺と一緒にそこで住んで貰う。」
「!!」
「嫌とは、言わせない。お前は、俺のモノになったんだからな。」
「住むって・・・通いとかじゃダメなの?だって私には、学校が・・・」
「毎日通うつもりか?学校なんてココからじゃ遠いだろ?辞めたらどうだ」
毎日・・・確かにココまで通うとなればそれなりに経費がかかりそうだし、もし一緒に住んだら通学が相当不便な
モノになる事間違い無い。
そうこう話している間に車は、一等地に建つマンションの地下へと入って行く。
遊星が住んでいるマンションも閑静な住宅街に建つマンションなのだが車が入って行ったマンションに比べて可愛い
存在でしかない。
こんな高級マンションの家賃は、どうやって払っているのか?
それともこのマンションは、分譲マンションなのだろうか?もしそうだとしても一体幾らぐらいするのだろうか?
そう思うと隣で運転している男が異世界の住人の様に思えて仕方が無い。
地下駐車所に車を止めると遊星を抱き寄せエレベーターへと向う。
抱き寄せられる気恥ずかしさから遊星は、ジャックの躰を少し押しのけ様とするが耳元で
「可愛い抵抗だがそんな抵抗で俺が抱き寄せる腕を緩めるとでも思ったのか?」
囁くように言われ更に強く抱き寄せられてしまう。
エレベーター内には、防犯カメラが2台も設置されているのに・・・。
自分達の姿がモニターされているのだと思うと恥かしくて仕方が無いのにこの男は、平然としている。
まるで見せ付けるかのように。
余りの恥かしさに遊星の顔が朱に染まり出す。
エレベータが止まったのは、最上階。
ここまで来るのにそれほど時間がかからなかったしよくよく考えてみたら階を指し示すボタンを見なかった
事を想い出す。
しかもエレベータを降りて数歩の距離で玄関扉に辿りつく。
(なっ・・・この人って何をしてこんな高そうな所に住んでるのよ!!もしかして何処かの御曹司?
こんな所に連れてこられるなんて・・・場違いにも程がある。)
この場から立ち去りたい心境に陥る。
躰が硬直して足が動かない。
そんな遊星の肩を抱き寄せながらジャックは、玄関を開け室内に入って行った。