捕われて-6-
ジャックと遊星が店を出て行った後・・・
「クイーンを本当に手中に治めるなんて流石キングだな。」
短い時間だったとは、言えジャックが遊星を連れて来た事にその場に居た者達は、感心の声を上げていた。
ただ店の奥に居た2人は、別としてだったが。
その2人の内1人が
「これでキングが腑抜けにならければいいんだけどね。」
金髪の髪の長い女が不愉快な表情を顕に言うと、
「キングに限ってそんな事にならないって。」
「そう言いきれるかしら?歴史の紐を解くとたった1人の女の影響で己が身を滅ぼす男達は、後を絶たないんだけど」
「寧ろ守る者が出来た事によって飛躍的に進歩するかもしれないぜ。」
顔に変ったマーカーを施している小柄な男が言うと女は、
「その守るべき者がチームのアキレス健にならないと言い切れるかしら?」
影で男を国を操って来た女達だって歴史の中で翻弄される人生を歩んでいる。
「アンジェラ・・・気持ちは、解るんだけど余り苛々しない方がいいよ。」
「カーリーは、黙ってて!!」
「黙ってられないわよ。余り苛立つとシワの原因になりかねないのよ。」
カーリーにしてみれば宥めているつもりなのだろうけど女としては、シワの事を言われたく無い。
「もう〜知らない!!」
そう言って店の外へと出て行くアンジェラの後を慌てながら付いて行くカーリー。
2人が出て行った後、店内に居た者達も全てでは無いが一部の者はアンジェラの言葉に納得していた。
「クイーンを餌に強い奴とデュエルをするのは、自分のスキルが上がって良いけど・・・」
クイーン狙いの奴等ともなれば一筋縄でいかない猛者達がチャレンジしてくるだろう。
その都度そんな奴等と渡りあって本当に勝てるのか不安になって来る。
「オイオイ。お前等そんな弱腰でどーするんだ?一番狙われるのは、キングの方だろ?」
呆れ顔で言うクロウだったが彼等の不安も解らないワケでは無い。
クイーンを手中に治め様って言うんだプロ級のアマチュアだって居るだろうしプロも混じっている可能性だって在る。
本当の雑魚ならクイーンなんて高嶺の花を狙うなんて思えない。居たとしたら馬鹿か高みを望む者か・・・。
「あのさ・・・クロウ・・・クイーン狙いでマジヤバイ奴居るんだけど・・・」
「ん・・・?」
++++
「アンジェラ待ってよ。」
頭から湯気が出ていそうなアンジェラの後を必死で追い掛けるカーリー。
「そんなに怒らないでよ〜。」
ピタっと足を止めカーリーの方に向き直ると。
「前々から貴女に言っているでしょ?貴女は、一言多いのよ!!女にシミ・シワは、禁句だって頭の軽い貴女
にも解ってる筈よ!!」
「ヒィ〜ゴメ〜ンもう言わないよ〜。」
キキィィィィ・・・ボォンボォン・・・
急ブレーキと派手なエンジン音に2人は、言い争う事を忘れ音のする方を見る。
「オイ。お前等この辺にクイーンが来なかったか?」
ヘルメット越しに話しかけられていると言うのに相手から感じるの異様な空気に2人は、言い知れぬ恐怖を
感じた。
「クッ・・・クイ・・・」
「知らないわ。第一クイーンって高校生だって噂じゃない。高校生が飲み屋なんかに来るわけ無いでしょ?」
この場から逃げ出したい気持ちなのに足が動かない。
蛇に睨まれた蛙状態だ。
それでもアンジェラは、虚勢を張ってD・ホイールに乗る異様な男を睨み付ける。
「確かにクイーンがこんな所に来るわけ無いな。呼び止めて悪かったな。」
そう言うと男は、エンジンをふかし高笑いをして去って行った。
男が去った後、金縛りが解けたかの様に躰が自由に動く。
動くのだがカーリーは、腰が抜けたのかその場に座り込んでしまう。
そんなカーリーを余所にアンジェラは、店の中えと踵を返す。
「オッ もう戻って来たのか?」
カラカイ半分で言われるもアンジェラは、気にする事無く血相を変えてクロウの元へと急ぎ、
「クロウ!!あのクイーンってどういう交友関係を持っている子なのよ!!」
捲し立てるが
「どうしたんだ?何かあったのか?」
外で何が有ったのか知らないクロウは、アンジェラが何に対し血相を変えているのか解らない。
「何が・・・ですって?今不気味な男が店の前にD・ホイールで横付けして『クイーンが来なかったか?』って
聞いて行ったのよ。メットをしているとは、言えあんな不気味な男を見たのは初めてよ。」
「・・・でカーリーは?」
「店の外で腰抜かしてるわよ。」
「その男の特徴って言うか・・・何か覚えてないか?」
キング狙いなら相手の特徴さえ解れば攻撃をしかけられるが・・・今の話しだとクイーン狙い。
クイーン狙いの連中を未だリストアップしていない。
時間が掛かるかも知れないが今の時点で姿を現して来た者達を片っ端から調べるしかない。
「特徴って・・・メットしていたから顔なんて解んないし・・・」
「ク・・・クモ・・・ジャケットの袖に黒淵のクモが描かれていた・・・」
店の前で腰を抜かしていたカーリーが這いつくばって何とか店の中に入って来たので店内に居た者達で手を
貸し彼女を抱え上げる。
「そんなマークなんて袖にあったの?」
信じられないと言わんばかりにカーリーを見ているアンジェラを余所に
「袖口付近に描かれていたの。普通チームのマークとかって肩口付近か背中にデカデカと描くのに変な所に
描いているから覚えたの。あっそうそうキングと同じ場所だった。」
ジャックの腕に翼の刺青が施されているがこれは、チームマークでは無い。
ジャック自身己が目標に羽ばたく為に彫り師に彫らせたモノなのだ。
「黒淵のクモ・・・」
そんなチームマークを持っているチーム・・・聞いた事が有るがキング狙いの連中でそんなチームは、無い。
「クロウ・・・それって『ダーク・スパイダ』じゃないか?」
恐る恐る声を掛けられ
「ナーヴ そのチームの事知っているのか?」
「知っているってワケじゃないが『ダーク・スパイダ』のリーダ・鬼柳京介って男がクイーン狙いで有名だから」
「クイーン狙い・・・」
「ああ・・・何度か対戦しているがクイーンが連勝しているって聞いた。只、今の時点鬼柳京介が正々堂々と
デュエルしているからの話しであって卑怯な手を使えばクイーンでも勝てないかもしれない。」
《卑怯な手》と言う単語で思わずクロウの顔が引きつってしまう。
遊星が月命日に勝てないと言う事を知ってその日にデュエル(人質まで取って)をし手中に治めたという卑怯
な手を使ったからだ。
その事を知っているのは、一部の幹部のみ。
口が裂けても言えない・・・。
「しかし今日の夕方の話しだって言うのにもう鬼柳の耳に入ってるのか?」
「ココに来たって事は、クイーンがキングの手中に落ちたって事を知っている訳だろ?」
「そうだよな・・・」
「でもクイーンは、そいつに連勝してるワケなんだし問題ねぇーんじゃ?」
「そうだな・・・そうだよな」
「アンタ達バカじゃないの?それってナーヴが言ってる様に正々堂々としたデュエルでの話しであって卑怯な
デュエルでも勝てるって言い切れるの?」
余りにも情けない話しをしている男達を見下しながらアンジェラは、腕を組み呆れ顔。
「・・・でどうするのクロウ?」
「キングには、オレから明日話しをする。」
「明日ってアンタ!!それじゃ・・・そっ・・・そうね・・・」
急に顔を赤らめ捲し立てるのを止めるアンジェラ。
クロウが言う『明日』の意味を理解したからだ。
「だったら明日の朝1で教えてあげる事ね。」
「ああ・・・」
(はぁ・・・明日の朝からヤッテナイ事を祈るしかねぇか・・・)
多分今頃キングは、クイーンに食手を伸ばしているだろうから。
(幹部ってのも疲れる・・・)
「何で今日キングに知らせねぇ〜んだよ」
心無いと言うか無知と言うか空気が読めないと言うかそんな言葉を発する奴を相手に
「バカじゃないの?そんなんだから彼女出来ないのよ。ああ・・・彼女イナイ歴万年男には、解らない世界よね」
デコピンを食らわし嫌味一杯に哀愁を投げかける。
そんなアンジェラの横で苦笑いをするカーリー。
それを横目に
(今度から人選をしっかりしないとな・・・)
と苦悩するクロウだった。