捕われて-8-


ここに連れて来られてどれぐらい経ったのだろう?

学校に行く事を許されず一人で外出する事も許されていない。

当然の事だが友達に会う事でさえ許されていないのだ。

 

この部屋にカレンダーが無い訳では無い。

日にちだけを知るなら別にカレンダーに頼る必要なんてない。

デジタルの時計や録画再生用のデッキにだって表示されている。

ただ毎日が憂鬱なのだ。

たまに一人で外の空気を吸いたい。ベランダから吸う外の空気では無く・・・。

別に幽閉されているワケでは、無いので外に出ようと思えば出る事だって容易に出来る。

出来るのに何故しないのか・・・。

もし勝手に外に出て何処かに行こうものなら大切な友達に被害を与えると言われた。

脅し?脅迫?そんなモノに屈しないとイケナイなんて。

 

買い物に行く時は、ジャックないし腹心のクロウが付いて来る。

監視を意味して。

息苦しくて息苦しくて仕方が無い。

 

ジャックだって遊星を拘束したくてしている訳では無い。

彼女が自分の元を離れるなんて考えたくない。

だが先日アンジェラやカーリーが出くわしたクモの刺青を持つ男。

『ダーク・スパイダ』の鬼柳京介の存在。

彼が遊星狙いだとクロウから報告があった。

今は、大人しく正々堂々と遊星にデュエルを申し込んでいるが鬼柳のデュエルは、悪質で卑怯な手が多い

と聞く。

もし今度遊星にデュエルを申し込むとしたら卑怯な手を使うかもしれないし否、デュエルをするだけなら未だマシ

な方かもしれない。

拉致・監禁と言う方法に出られたら?

遊星に執拗に迫ってくる様な男だ。

既に遊星が自分のモノになっている事ぐらい耳にしているだろう。

遊星が負け勝者の手に落ちた事を鬼柳は、どう思うだろう?もしくは、どう思っただろう?

その怒りの矛先は?

当然良くは、思わないしその怒りの矛先は、勝者に向けられるならまだしもきっと執着していた遊星の方に

向けられるかもしれない。

遊星を守る意味で彼女の外出を禁じた。

彼女が外出を望むなら自分ないし自分が最も信用しているクロウが付いて行く事にした。

遊星に降りかかるかも知れない最悪な事態を回避する為に・・・

だがそんな事を遊星は、知らない。知らせていないし知らせるつもりもない。

余計な心配をさせたくないしその男の協力の元ココから出て行かれても困る。

一度手に入れたモノを容易に手放す気なんて更々ないのだから。

しかしどんな手で遊星に近づこうとしているのか気が気でない。

 

そんなある日の事

「アンジェラ 勝手な事してキングにバレタラ大目玉だよ〜。アタシ嫌だからねキングに怒られるの」

「だったら貴女は、付いて来なければいいじゃない。」

情けない声を出すカーリーに対しアンジェラは、何に対してなのか怒りを露にしている。

何に対して怒っているのか・・・それは、ジャックがクィーンを手に入れた初日にしか会わせてくれなかった事

『レッド・デーモンズ』には、間近でクィーンを見たいとサティスファクションのメンバー以外にも人が集まっている。

最初の頃は、アンジェラ自身遊星の事を余り良く思っていなかった。

高校生にして周りからチヤホヤされた存在。何不自由なく育ったお嬢様だと思っていた。

だが遊星の噂を耳にした時、その考えを改めた。

改めたと行っても容易に出来る事じゃない。アンジェラなりに苦悩したのだ。

今尚アンジェラの中の遊星は、お嬢様的な部分が在る。それを払拭し仲良くなりたいと思っていた。

その思いがなかなか叶えられずストレスが溜まりアンジェラ気持ちは爆発寸前。

気持ちが爆発する前に近づく事を禁じられているジャックのマンションへと向かっていたのだ。

ズンズンと進んでいる筈の足がマンション付近でピタッと止まる。

マンションから出て来る男女の姿・・・何処かで見覚えがあった。

「あれってクィーンじゃない?」

眼鏡を掛け直す仕草で女性の方を見るカーリー。

「なっ・・・なんですってぇ〜!!冗談じゃないクィーンは、何考えてるの?彼女にはキングと言う男がいるじゃない。

頭くる!!ガツンと言ってやらないと」

怒り心頭のアンジェラは、脇目を振らず一直線に向かおうとしているがその彼女を後ろから羽交い締めにして行く

手を遮るカーリー。

「ちょっと離しなさいよ。」

「落ち着いてよ!!今行くの良くないよ。今は、キングにこの事を知らせないと。」

「はぁ?クィーンが浮気をしているとでも言えばいいの?」

馬鹿じゃない?と言いたそうだが

「違う。クィーンの隣に居るの『ダーク・スパイダ』の鬼柳京介だからよ。」

『ダーク・スパイダ』の鬼柳京介と聞いて息が詰まりそうになる。

サティスファクションのメンバーから聞かされた鬼柳京介の恐怖。

自分が追い求める快楽の為には、手段も選ばない。例えそれが女子供であっても容赦しないと言う。

「もしココで私達が彼に怒鳴り込んでも太刀打ちなんて出来ない。寧ろ返り打ちに遭うかクィーンに危害が

及ぶかもしれない。」

こんな時のカーリーは、何と頼もしい存在なんだろう。

もし自分1人だったら・・・そう思うとアンジェラの足が竦んで動く事が出来ない。

そして何故カーリーは、クィーンに危害が及ぶと判断したのか・・・それを問いたくても今は、それ何処では無い。

一先ずキングに連絡する事を優先するべく震える手でショルダーバックから携帯電話を取り出しメモリに登録

されているキングにダイアルした。

 

 

+++

 

「彼女達は、無事なんでしょうね。」

マンションから連れ出された遊星の表情は、強張っていた。

ジャックに内緒でマンションを出るからじゃない。

自分を連れ出した男の異様とも取れる雰囲気と言動に言い知れぬ恐怖を感じたからだ。

今迄この男から感じた事の無い恐怖。

「たり前だろ?貴様を連れ出す口実だったんだからな。」

「!!」

口角を上げ嫌な笑みを浮かべ遊星を見る。

背筋が凍る思いだった。足が竦んで動けなくなりそうだった。

否今の状況では、動く事が出来ない。

今自分が居るのは、鬼柳が用意した車の内。

喧嘩でもしたのだろう顔に青痣を持つ男が運転している。

「名前の知らないような女共の為にノコノコと着いて来るとは、相変わらず甘ちゃんな女だな遊星よ。」

「本当に彼女達に手を出してないのね。」

念のために再度聞くと

「しつこい女だな。俺が用有るのは、貴様だけだ。第一貴様を呼び出す口実だと言っただろう?」

何度も問う遊星に対し呆れた表情を向けるが遊星の表情が先程に比べて穏やかになっている事に気が付く。

「フン そんなに女共の事が気になるのか?」

「そうね・・・気になるのかもしれない。」

会った覚えが無いのにどうして自分は・・・と思う。

でももし本当に拉致をされていたら?そう思うと鬼柳の誘いに乗らなかった事に後悔したかもしれない。

自己満足の為の行動だって解っている。

しかしこんな時だと言うのにジャックの事を思い出さないなんて・・・つくづく酷い女なのかもしれない。

「遊星 一つ言っておくが車が信号で止まったからと言って車外に出様と思うな。」

「?」

「チャイルドロックをしていると言っているんだよ。」

「!」

車が止まっている隙に逃げ様と思った事を言い当てられて驚きは、したもののこの手の手段はテレビでもやっている

事なので容易に想像出来るのだろう。

車窓を流れる景色を見ながら遊星は、この場からどうやって逃げるか考えていた。

だから本当は、車窓なんて見ていないのだ。

それ故に鬼柳が近づいて来た事にも気がついていなかった。

「遊星 何を考えている?」

遊星の腰を抱き寄せ彼女の顎を捕らえ自分の方に向かせる。

美しい蒼い瞳が鬼柳に向けられる。

「遊星 貴様は、この俺の女なんだ。この俺の女になるために貴様は、生まれて来たんだよ。

解るか遊星?貴様に触れて良いのは、この俺だけなんだよ。」

異様な雰囲気を醸し出しながら言われても遊星は、臆する事無く。

「それは、違う。私は、私の両親に望まれて生まれて来た。誰か一個人の為に生まれたんじゃない。

一個人の為と言うならそれは、自分の人生において決める事だ。もし私が貴方の為に生まれたと言うのなら

前世からの繋がりなのかしら?だったら前世の私は、碌でも無い男を選んだものね。」

呆れたかの様な笑みを浮かべながら話す遊星に腹ただしい気分になる。

「その減らず口を叩いていられるのも今の内だ。」

その言葉と同時に遊星の意識は、次第に遠のいて行った。


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