捕われて-9-
アンジェラとカーリーの報告を受け急いでマンションの方に向かうクロウ。
こんな時に限ってジャックは『レッド・デーモンズ』の方に姿を現していない。
携帯に電話をするも繋がらない状況。
「チッ・・・ジャックの奴こんな時に何処行っているんだよ。」
部屋の扉には、無理矢理開けられた痕跡は見当たらない。
そうなると遊星自ら開けた事になる。
玄関には、争った様な形跡も無い。
遊星が住むようになりもしもの事を考え玄関先とエレベーターの内に設置された防犯カメラは、見事に壊され
ている。
録画の方は、されているのか疑問だが・・・
更に駐車場に設置されている防犯カメラ・・・まだ確認をしていないがそっちが壊れていない事を祈るしかない。
エレベーターに乗る際に指紋認証だけでは、心もとないから他にもセキュリティーの設置を要望したのに。
ジャックの傲慢な性格が災いして設置を残念。
だがその事で「あ〜だ、こ〜だ」と言ってももう遅いのだ。
一先ず録画されていのかどうかを確認してから遊星を探す事にする。
既にサティスファクションのメンバーには、遊星を探す様に指示を出している。
何かしら情報が入り次第連絡する様にも言ってある。
そしてそれ以上の事をするな・・・とも言ってある。
相手は、『ダーク・スパイダ』だ到底正攻方で勝てるワケが無い。
どんな手段を使われるか分からないのだから。
録画用のデッキからCDを取り出すと再生録画が出来るデッキへと挿入し再生させる。
丁度その時だった。
「お前達ココで何をしている?」
聞きなれた声が聞こえて来た。
+++
時を同じくしてドミノ国際空港に降り立つ一組のカップル。
「久しぶりの休暇でドミノに帰って来たと言うのに浮かない顔だな?」
何時も嬉しそうにしている筈の相手が不安気な表情を浮かべているのが気になる。
「あの子の・・・遊星の元気な気を感じないの・・・」
空港に付く前から感じる弱い気。何か悪い事が遊星の身に起きているのでは・・・
「アキは、心配性だな。彼女は、強い女性だよ。」
「あの子は、強くない強がっているだけの寂しがりやよ。」
早く遊星の元気な顔を見たいと思う気持ちがアキと呼ばれた女性の胸を締め付け気を焦らせる。
「アキの不安そうな顔を見るのは、僕としては辛い。早く遊星ちゃんの顔を見に行こう。」
「ありがとうディヴァイン」
正直な所ディヴァインも飛行機の中から遊星の気を探っていた。
遊星の放つ気は、仕事で疲れたディヴァインやアキの心を癒してくれていたからだった。
それなのに今感じ取る彼女の気が何時もより弱かった。
風前の灯とまでは、行かないがそれに近いかもしれない。
だがそれを表に出さないのは、彼のパートナーである十六夜 アキの存在だ。
彼女は、遊星の実の姉なのだった。
しかし遊星は『不動』の性を名乗っている。
それは、彼女・・・遊星が不動博士の元へ養女として出された為。
遊星の本来の性は『十六夜』なのだ。
それを遊星は、知らない。戸籍には、不動博士の実子として出されているから。
生まれて直に不動博士の子として届けられていた。
それを知っているのは、幼かったアキとその両親と不動夫妻。
主治医でさえ知らされていない。
アキの父親と不動婦人は実の兄妹。
妹夫婦が不妊で悩んでいた事を知っていたアキの父親は、自らの妻に生まれてくる第二子を妹夫婦の子
に捧げて欲しいと頼んだのだった。
苦悩した末、十六夜婦人は第二子を義妹夫婦に託す事にした。どんなに苦悩したのか想像を絶する事だ
ろう。
だが十六夜婦人は、「もし私が彼女と同じ立場だった・・・そう思うと・・・」泣きながらもそう答えた。
アキ自身幼い頃から両親に何度もその事実を聞かされていたが幼い彼女には、理解が出来なかった。
だから年頃になるまで会う事を禁じられていた。
不動夫妻の元で明るく元気な遊星を見てアキは、姉である事を永遠に胸奥深く封印する事を決意し遊星
の前では、優しい従姉妹を演じる様になった。
そんなアキの事を大切に思うディヴァイン。
だからディヴァイン自身も遊星をアキ同様に大切にしていた。
ディヴァインは、気持ちを落ち着かせ今一度全神経を集中し遊星の気を追う。
微かに感じる気。
それは、一箇所だけでは無い。
彼女が本来住んでいるマンションからと別のマンションからと感じた事の無い邪悪な気に囲まれているのとで
3箇所・・・。
本来住んでいるマンションからの気は、微弱で感じ取るのは難しい。
もう一つのマンションからは、やや強く感じられる。もう一つには、正直関わり合いたく無い。
「アキ 遊星は、もしかしたら別の場所に住みだしたのかもしれない。僕が感じた場所に行ってみないか?
何か手掛かりがあるかもしれない。」
「あの子が両親の残したマンションを引き払うとは、思えないのだけど・・・」
しかし気が乱れている今の自分では、遊星を探すのは困難なのでディヴァインの提案に従う事にした。
+++
「ジャック!!何処に行ってた!!」
何時もなら『キング』と呼んでいるのに流石にこの状況じゃ名前の方が先に口から出てしまう。
そんなクロウにジャックは、眉間に皺を寄せながら
「お前達に関係無い。それより遊星は、何処に居る?」
室内を見渡せば居る筈の遊星の姿が無い。
不審に思い尋ねれば。
「クィーンが誘拐されたかもしれないんです。だから皆で手分けして捜索している最中なんですよ〜。」
「遊星が誘拐されただと・・・誰が!!」
「ったく・・・この2人の話しだと鬼柳京介だろうな。」
モニターを見ながら言うクロウ。
「鬼柳京介・・・」
(確か遊星を狙っている輩の一人・・・)
以前受けていた報告を反芻する。
(何故、鬼柳京介は遊星に執着する?ヤツにとって遊星とは、どんな存在なのだ?)
自分にとって遊星は、特別な存在であるのと同じで鬼柳京介にとっても遊星は特別な存在なのだろう。
だが鬼柳と遊星は、デュエルをする以外特別な間柄では無い。
拉致をする理由なんて無いのでは?
ジャックは、何故他の男のモノとなった遊星を拉致までして傍に置こうとするのか鬼柳の考えが解らなかった。
否、多分解っているのだ。解っていて解らないフリをしているのだ。
「大方、何度も下見をして防犯カメラの配置やその他のセキュリティを調べあげたんだろう。見事に一発でカメラ
が壊されている。」
相手を完全に捕らえる前に狙い打ちをされ犯人の姿が映っていない。
だが1箇所だけ犯人の姿を捕らえているカメラがあった。
駐車場に設置されているカメラだ。
薄暗く人目に付きにくい場所に設置をされている所為で破壊を免れたのだろう。
(まさかお化けカメラがこんな時に役立つなんてなぁ・・・)
人目に付かず、その存在さえ忘れられているカメラ。設置をしたジャックでさえ忘れている位に存在感が無い。
しかしその所為でこのカメラは、連れ出される遊星の姿をしっかり映し出している。
遊星の傍に居るのは、紛れも無く鬼柳京介。
遊星を連れ出す事に成功した表情なのか薄ら怖い笑みを浮かべている。
それに反し遊星の表情は、強張って緊張しているかの様に見える。
何かを話しているかの様に口が動いているが音声まで録音されていないので何を話しているのか解らない。
重苦しい空気が流れる中。
「お取り込み中の所、申し訳無いのだけど少しいいかしら?」
見知らぬ声に緊張が走る。
一斉に声の主の方を見ると見た事の無い男女が勝手に部屋に上がっている。
しかも土足で・・・。
「あ・・・あんた達何者なの?急に話し掛けないでよ。吃驚するじゃない。」
相手に文句を言うアンジェラの声は、上ずり顔は強張って冷や汗がその顔を伝い落ちている。
「何回も呼び鈴を鳴らしたけど何の反応も無いから御邪魔させてもらったの。」
呼び鈴の音なんて聞こえなかった。そこまで自分達は、遊星の事に気を取られていたと言う事なのか?
「君達に聞きたいのだけど。ココに不動遊星って言う女の子、居ないかな?」
女性の隣に立つ男が笑みを浮かべて尋ねるがその目は、笑っていない。
確実にこの部屋の状況を分析している様に見える。
「生憎だがそんな名前の女は、ココに居ない。この部屋の所有者は、この俺なのだ。部屋の所有者である俺
が言うのだから間違いないだろう。」
ジャックは、憮然とした態度で2人の前に立つが
「さっきそのモニター越しに見えたのは、遊星だった様に思えたのだけど?」
「見間違いだろう?さっさと帰ったらどうだ?」
あくまで白を切をするジャックを見上げながら
「私を騙せると思うの?正直に言いなさい。さもないと酷い目に遭うわよ。」
アキは、瞳に力を込める。
「アキ。今ココで力を使うんじゃない。彼等は、僕達の事を何も知らないんだ。警戒されて当然だろう?」
軽く溜息を吐きながら仕方が無いと言わんばかりにディヴァインは、2人の間に入る。
「僕達は・・・」