捕われて-10-
「・・・そんな話し一度足りと聞いた事が無い。」
相手に聞こえない程度の小声で呟く。
目の前に居る女・・・十六夜アキが遊星の従姉妹だと言うのだ。
遊星は、天涯孤独だとばかり思っていた。
親戚が居ない筈が無いとは、思っていたが彼女の両親が亡くなった後、誰一人遊星を引き取ろうとしなかった。
だから彼女は、親戚から見放された存在なのだと思っていた。
それに遊星の口からアキの事なんて一度も出た事が無い。
「君の今の発言からにして遊星ちゃんの事知っているんだね?」
聞こえていないと思っていた呟きにジャックの眉間に皺が寄る。
それを見取ってカーリーが
「そりゃそうです!!クィーンは、誰しもが憧れる存在。彼女の名前を知らないなんてモグリですよ。
ただ彼女は、謎が多いんです。家族や親族の話しなんてこれっぽちも聞いた事無いし恋人の存在だって!!」
カーリーは、遊星にまつわる謎を指を折りながら言って行くがそんな彼女の姿にディヴァインは、困ったような何とも
表現し難い表情で
「僕達は、遊星ちゃんの気を追い掛けてココに来たんだ。いい加減、遊星ちゃんの事話してくれないかな?
僕としては、こんな手は使いたくないけど君達に少々痛い目に遭ってもらわないといけなくなる。」
ディヴァインは、スーと人差し指をカーリーの方に向ける。
何が起こるのか解らない状況下で突如カーリーの顔が苦悶の表情に変わる。
そして首筋には、有るはずの無い手型がハッキリと浮かび上がっている。
「がはぁっ・・・うっ・・・ぐっ・・・」
呼吸が出来ず藻掻き苦しむカーリー。
ディヴァインが見せているのは、サイコキネシス・・・超能力の一種。
噎せ苦しむカーリーにアンジェラ達は、一瞬だが何が起こったのか解らなかった。
青ざめて行くカーリーを見ながらジャックは、
「その女は、関係無いだろう?それにそんな事が遊星の耳に入れば・・・」
「ククク・・・アハハハ・・・いやぁ〜まさか僕を脅そうとするなんて」
高笑いしながらカーリーへの力を緩めながら
「僕としては、遊星ちゃんに嫌われたくないからな。だが普通なら仲間を助けてくれと懇願すると思っていたのに
・・・プライドか?それとも知恵者か?」
ジャックという男を見極め様とするディヴァインだったが
「そんな御託は、どうでもいい。貴方達は、遊星が何処に居るのか素直に話せばそれで済む。」
今迄のやり取りを黙って見てたクロウが溜息を吐きながら
「生憎だがクィーンは、ココに居ない。誘拐された。」
「クロウ!!」
「ゲホ・・・ゴホ・・・」
首を締める存在が無くなり急いで新鮮な空気を取り込もうとするカーリー。
「隠していても意味が無い。こうなればこの人達にも協力してもらう。それにココで言いあっている無駄な時間は、
オレ達には無い。一刻を争うんだ。」
そうこれが唯の誘拐・拉致なら・・・遊星の価値を知る者ならそう簡単に人質に危害が及ぶなんて在り得ない。
そう思わないのは、相手が『ダーク・スパイダ』の鬼柳京介だからだ。
「わ・・・私もクロウのいっ・・・意見に賛成です・・・クィーンが生きている内に助けださないと・・・」
息が整わないので一気に言葉を発する事が出来ない。
「生きている内にって穏やかじゃないわね。遊星の身に何が起きているって言うの?」
今迄無表情に近い表情でジャック達を見ていたアキの眉間に皺が寄りだす。
「クィーンは、とんでもないヤツに目をつけられていたんだ。そいつに無理矢理このマンションから連れ出された。」
更に険しさを滲み出しながら
「連れ出された・・・って・・・じゃぁ居所が分らないって事なの?」
冷静に勤め様としたがカーリーの『生きている内に』と言う言葉が引っかかって冷静に居る事が出来ない。
「遊星ちゃんは、余ほどタチの悪いヤツに連れて行かれたみたいだね。」
「そんなレベルで済ませられる相手じゃねぇ・・・」
多分生きている筈。
幾ら何でも己が惚れた女を殺しは、しないだろう。だが無傷とは、到底言えない。
何かしらの制裁とも言うべき酷い目には、遭わされるだろう。
ディヴァインは、クロウの表情からただならぬ相手によって遊星が連れて行かれた事を察し。
「アキ、僕が遊星ちゃんの居所を探知する。そのサポートをしてくれないか?」
ココまで散々力を使って来たのだ躰が持たない。
「御免・・・ディヴァイン。私が集中力が欠いたばかりに貴方に迷惑をかけて・・・」
「いいさ・・・」
そう言うとディヴァインは、気持ちを集中させる。
そんなディヴァインの肩に手を乗せアキも集中し己が力をディヴァインに注ぎ込む。
広範囲での探知。どれだけの力が消耗するのか未知数。
探知後、意識を失ってしまうかもしれない。
最悪の場合、超能力を失うかもしれない。
無言のまま瞳を閉じ一言も話さなくなった2人。
何とも言いがたい異様な空気が流れる。
ただ見ているだけのジャック達でさえ言葉を失ってしまう。
ディヴァインの脳内には、ドミノシティの街並みが飛び込んで来る。
その一つ一つに遊星の気を感じるのだ。
(更に絞り込んで彼女の気を追わないと・・・もっと彼女に関する情報を・・・遊星ちゃんに関する事を・・・
鳥た木々からも情報を採取しないと・・・)
更に集中していくディヴァイン。
ディヴァインに力を注ぐアキの額から汗が浮かび上がり表情が苦悶に歪む。
広範囲で透視をするのは、今回が初めてじゃない。
漠然とした透視なら何度もした事があるがココまで細密とも言える透視は、した事が無い。
しかも飛行機の中からココまで来る間に透視を続けた所為で疲労が溜まっている。
何処まで意識を集中していられるのか解らなかった。
だがココで集中力を解く訳には、いかなかった。
何か言い知れぬ恐怖を感じるのだ。
その恐怖は、自分達に向けられているワケでは無い。
恐怖の矛先は、遊星・・・彼女の身に何か良からぬ事災いが降りかかろうとしている。
早く彼女を助けださないと!!
焦る気持ちがディヴァインから少しずつ集中力を奪い出す。
それが更なる焦りを生み出す。
集中力が少しずつとは、言え削がれて行くのをディヴァイン自身感じていた。
そしては、自分に力を注いでくれているアキにも解った。
苦悶に歪むディヴァインの表情。
それがアンジェラ達に不安な気持ちを与えて行く。
(どうすれば・・・)
苦悩するアンジェラとカーリー。
クロウは、モニターを見ながら仲間からの連絡を待つ。今それしか自分には、出来ないと考えたからだ。
何も出来ないもどかしさと歯がゆさにその身を押し潰される思いがした。
ただその中ジャックだけは、表情を変えずに居た。
ゆっくりとだが伸ばされる腕。
その腕は、アキの肩に触れる。
まるで自分の力を使えと言わんばかりに・・・だがその行為は、ディヴァインやアキに思いもかけぬ力を与えたのだ。
流れ込んでくる力・・・
ディヴァインの中で目まぐるしく変わる景色。
それは、鮮明で今ディヴァイン自身が経験しているかの様な気分にさせる。
そしてその景色は、どう言う訳かディヴァインの意思を無視して動いている。
ディヴァインが見ている光景をアキも同時に見ていた。
(凄い・・・超能力者でも無い彼の何処にこんな力が在ると言うの?もしかして・・・)
そう思っている間に景色は、何処かの埠頭付近の廃屋に辿り付く。
建物の形からにして何かの工場だったようだ。
ディヴァインが見ている光景をアキは、口に出し始めた。
そんな行為は、今迄した事が無い。無意識の内に口から出ていた。
アキの口から出て来る光景にクロウは、目を輝かせながら。
「そういう場所ならドミノ埠頭付近に在るぜ。確か10年前に倒産した水産物加工会社の工場だ。」
場所だけでも特定出来てアンジェラやカーリーは、少しだけ安心した。
しかし問題は、今遊星が置かれている状況だ。
「死んでは、いない。己が惚れた女を始末する様な事は、しないだろうからな。」
だが無傷とは、言えない。
「一先ず。そこのオレンジ頭が言う場所に行ってみましょ。」
疲れている筈なのにそれをおくびにも出さない。
そしてそれを回りに居る者達は、口に出せない。
今は、一刻も争う時だから・・・