捕われて-12-


「待てぇ〜!!このアマ!!」

男が2人ほど追い掛けてくる。

遊星は、必死で走った。

アンジェラ達が無事なら大人しく捕まっている理由なんてない。

 

遊星は、鬼柳が居ない隙に自分の傍に居る男の股間に蹴りを入れる。

ディヴァインから男がソコを蹴られると動けなくなる事を聞いていたから。

それに簡単な護身術ならアキにも習っていた。

ただ習っただけで使った事なんて一度も無い。

どれだけの威力が在るのかなんて知らない。

それでも何もしないよりましだと思う。

ただ股間を蹴った相手が冷や汗を流し蹲る様を見て

(本当に痛いんだ・・・)

と思いつつも少し申し訳無い気持ちになってしまう。

それでも構ってられない早く逃げ出さないと。

多分ジャックの耳に自分が居ない事が報告されているだろう。

ただジャックが遊星を探すかどうかは、別にして・・・

とにかく逃げ出さないと・・・最悪の場合を想定してダーク・スパイダとサティスファクションの衝突を回避させなけ

ればならない。

遊星がジャックの元に居ようが鬼柳の元に居ようが互いが『遊星を奪われた』と思っている以上、衝突は有り得る

のだ。

プライド故に。

 

当然の事だが遊星が逃げた事が鬼柳の耳に入る。

「何ィ 逃げられただぁ?だったらさっさと捕まえろよ。このクズ共がぁ〜!!」

怯えた様な部下を足蹴にしながら嬉しそうな表情を浮かべている。

「ククク・・・流石だな遊星。このオレを楽しませてくれる。遊星このオレを満足させてくれよ」

高笑いする鬼柳に側近達は、青ざめる一方だ。

「テメェ等ココに遊星を追い込め。いいな気づかれるんじゃね〜ぞ。失敗でもしたらどうなるか解ってんだろう?」

鬼柳の異様までの残虐さを知っているからこそ部下達は、遊星が迎えるであろう恐怖に今から身震いした。

 

 

「ハァハァ・・・」

荒い息を吐きながら逃げる遊星。

時折身を隠せそうな物を見つけては、身を隠し息を整える。

車窓を流れる景色を見て今自分が何処に連れて来られたのか把握は、している。

だがこの敷地内から出る事がなかなか出来ない。

鬼柳の部下に見つからないで簡単に出る方法が無いのだ。

考え過ぎなのかもしれないが何処かに追い込まれている気がして仕方が無い。

こう言う場合ドラマなら確実に追い込まれていくパターンだ。

まさか自分がこんな目に遭うなんて思っても居なかったので外への連絡手段である携帯端末を持って来な

かった。

まぁ持って来たとしても取り上げられて壊されてしまうか、その携帯端末を使ってジャック達を誘き寄せ弄り殺し

にされてしまう。

それなら持って来なくて正解かもしれない。

だがどうやって抜け出せばいいのだ?

自分から鬼柳の元へ出向くなんてしたくない。

だからと言って捕まりたくも無い。

鬼柳の元に居たとしても逃げ出せる術なんて思いつかないだろうから。

しかし自分の身の危機だと言うのにジャック達の心配をするなんてどうにかしてる。

あんなとんでも無い男の事なんて・・・

「ジャ・・・ック・・・」

物陰に隠れながらボソッと口を吐いて出たのは、ジャックの名前。

ジャックの名前を呼んだ途端遊星の心に一抹の不安や寂しさが募りつつも逢いたい抱きしめて欲しいと思う気持ち

まで募りだす。

「バカだなぁ〜こんな時に自分の気持ちに気づくなんて・・・」

膝を抱え目許が熱くなるのを感じる。

何時の間にかジャックの事が好きになってた。

何時なんて解らない。そもそも出逢いが悪かったのだ。

遊星を手に居れる為にラリーを人質に取りアンティデュエルを仕掛けてくる相手なのだ。

しかも手中に治めると自分の手元に置き夜毎の性行為。

監禁程酷くは、無いが軟禁状態でジャックかクロウが居ないと外に出る事も出来ない。

だけど今迄一度たりとも暴力を振るわれた事なんてないし人の誹謗中傷なんて言っているのを聞いた事が無い。

そう言えばクロウが良く言っていた。

『アイツは、あんな性格だけど仲間思いの良いヤツ』

だって・・・

「ジャック助けて・・・」

でもよくよく考えたら自分は、只の戦利品でしかない。

そんな自分を探しているかなんて解らない。

居ないなら居ないで捨てられたかもしれない。

次第に遊星の心に湧き起こる負の感情。

それなのにその負の感情に心が完全に支配される事が無かった。

『俺に相応しい女』『俺のモノ』と言う言葉が遊星の心に有ったから。

 

 

+++

 

遊星を助ける為にドミノ埠頭付近に在る廃屋に向けて車を走らせていた。

《ジャック助けて・・・》

(遊星?)

一瞬だが遊星が自分に助けを求める声が聞こえた。

「おい!!もっと早く走らせる事が出来ないのか!!」

胸騒ぎがする。

運転しているディヴァインが

「無理言うな。制限速度ギリギリで走っているんだ。」

「制限速度だと?そんなモン無視してしまえ」

「遊星ちゃんを助ける前にこんな所で事故を起こすつもなのか?」

「事故?それがどうした?そんな悠長な事言ってられるか!!その遊星の身に危険が迫っているかも知れ

ないんだ。」

切羽詰まった様なジャック。

彼が言っている事が解らない訳では無いが彼は、超能力者じゃない。

そんな彼が遊星の身辺で起きている事を察知するなんて到底無理と言うモノ。

遊星を助けたい一身で心が錯覚を起こしているのかもしれないのだ。

「落着いて。焦りは、禁物よ。」

助手席に座っているアキが後部座席に座るジャックに声を掛けるがその際ジャックの手に触れてみた。

「!!」

驚きによって見開かれるアキの瞳。

ジャックに触れた途端、見える光景。それは、誰かの目線。見覚えの在る建物・・・この建物は、先程部屋で

見た建物だ。

(これは、今遊星が見ている光景なの?超能力者でも無い彼が何故・・・イイエ・・・遊星も超能力者じゃない

それなのに彼に自分の危機を知らせている。でも彼には、この光景が見えている様には見えない。

じゃぁ無意識の内に受信していると言うの?そして遊星は、無意識に発信している。この2人の関係って・・・)

2人の関係を知りたい。

何度か遊星と連絡を取りあっているのに恋人の話しなんて聞いた事なんて無いし同棲しているなんて今日に

なるまで知らなかった。

ただ今そんな事を言っている場合じゃない今見たビジョンが現実のモノなら急がないといけない。

「ディヴァイン事故どうこう言っている場合じゃないわ。それに貴方程の運転技術が有れば事故なんて起きない

と思うんだけど?もしかして怖じ気ついているの?」

「そんな事無いさ。アキの御要望なら叶えないワケには、いかないな。後ろに居る御三方覚悟は良いかい?」

何の覚悟なのか問いたいが先程の会話からにして安全運転では、無い事が容易に想像出来る。

ディヴァインが運転しているこの車に乗車しているは、運転しているディヴァイン・助手席に居る十六夜アキ・

後部座席にジャック、カーリー、アンジェラの三人。

クロウは、別ルートでジャックのD・ホイールを運んでいる最中だった。


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