捕われて-14-
-ドミノ国際空港-
「う〜、流石に移動に次ぐ移動って疲れる」
空港のロビーで大きく伸びをする青年。
「恥ずかしいわね。私達は、任務で来たのよ。」
青年と同じ顔の女性が青年の行動を咎めると
「解ってるって」
鼻の頭を掻く青年に女性は、呆れ顔をしていた。
「2人とも今回の任務は、聞いていますか?」
「あっ狭霧さん、一応メールで確認しています。」
「『ダーク・スパイダ』の鬼柳京介捕獲ですよね?。」
狭霧は、首を左右に振る。
「龍亞、貴方メール読んでないでしょ?」
「えっ・・・あ・・・龍可が読むから別に良いかぁ・・・なぁ〜んて思ってみたんだ。」
「はぁ・・・そんなんじゃダメでしょ。私達の任務は、ディヴァインさん達のサポートであって鬼柳京介の捕獲
じゃないの。」
「じゃ・・・今回良いとこ無し?」
愕然としている龍亞に呆れ顔の狭霧と龍可。
「鬼柳京介は、残酷な男だと報告が有ったの。休暇中の彼等には、申し訳無いと思うのだけど彼の捕獲に
当たって貰うつもりだったのだけど・・・」
「連絡がつかないんですか?」
「ええ・・・しかも本部からの連絡だと超能力を発動させたままみたいなの。」
「発動させたままって何時からです?」
「ドミノ国際空港に降り立つ前に確認されその後一旦使うのを止め数分後また発動させているの。そこから
断続的に・・・」
「それって身体的に問題あるんじゃ・・・」
「だから貴方達に彼等のサポートに当たって貰う事にしたのよ。」
「じゃオレ達は、何処で待機していたらいいんです。」
「組織が運営している病院は、知っているわね」
「「はい」」
「そちらで待機していてもらえるかしら?多分、疲労が蓄積すれば彼等も行く筈だから。」
組織に連なる者達・・・特に超能力を駆使する者達為の病院。
強力な超能力を持つが故の精神状態を考慮し一般の病院では、無く彼等が心身の回復が出来る
医療設備を備えた特別な医療機関が全世界に在る。
ただ表向きは、普通の病院に見える様にしているが・・・
龍亞と龍可は、狭霧の指示の後急いで組織直轄の病院に向かった。
「あんな子供相手で鬼柳京介は、捕獲出来ないと判断した貴女の采配は流石ですね。」
「イェーガー室長・・・彼等は、子供じゃ在りません。」
「子供ですよ。まぁ・・・鬼柳京介は、我々でも手を妬く相手。彼等をサポートに回して正解でしょう。」
「鬼柳は、そんなに恐ろしい男なんですか?」
「対戦し負けた相手がおとなしく傘下に加われば何もしないでしょうが牙を剥けば相手が懇願しようが容赦
無く再起不能になるまで叩きのめすそうですよ。」
想像しただけでも恐ろしい光景に狭霧は、身を震わせ青ざめるがそんな狭霧を何処か面白そうに見つめる
イェーガーだったが
「詳しい情報では、ありませんがその鬼柳に十六夜の従姉妹が捕まっているそうです。
その従姉妹を救出する為に十六夜達は、力を使っているのでしょう。」
正確かどうか定で無いにしろ本部の超能力者が遠隔で見た情報・・・ほぼ間違い無いだろう。
「イェーガー室長は、どうされるのです?。」
「どう?とは、愚問ですね。私は、私の役目を果たすだけですよ。」
気味の悪い笑いをしながら空港を立ち去る。
狭霧は、一先ず本部の指示を仰ぐべく支部へと向かった。
+++
廃屋を化した水産加工工場に到着したジャック達。
工場の外を何度も通った事が有るものの内に入った事が無かったので実際入ってみて規模の広さに
驚いてしまった。
しかも広い工場内の何処かに遊星と鬼柳は、一緒に居るのだ。
無事に逃げ隠れをしていて欲しいとの願いは叶わずアキの透しだと遊星は、鬼柳に捕まったらしい。
早く助けださないとどんな目に遭わされるか解ったものじゃない。
気持ちは、焦る一方・・・思考は、空回り。
その時だった下肢 を血まみれにした男を担ぐ数人の男達に出くわした。
「お前等何者だ!!」
「貴方達に聞きたい事があるのだけど。ココにクィーンが居るのかしら?」
殺気立つジャックを静止ながらアンジェラが冷静さを装い男達の前に進み出る。
怖いのだろう震えている。
それでも冷静で在りたいと・・・遊星を救いたいと言う思いに狩られているのだろう。
それに今のジャックだと冷静さを欠いて必要な情報を手に入れられ無い可能性がある。
「そんな事、オレ達が喋るとでも思ってんのかぁ?」
「お気楽なネェちゃんだなぁ〜」
見下した様な感じで言い寄る男達に不快感を感じる。
「下っパだから上から信用してもらえず何の情報も貰えないのね。或る意味哀れね。」
下っパに見下される事の不愉快さが彼女の態度を何時もの彼女へと変えさせる。
目の前の男共に何の恐怖も感じない。自分が下手に出る様な相手じゃない。
「下っパだぁ〜?誰に向かってそんな口聞いているんだよぉ」
「貴方達以外に居ないじゃない?それとも自分達が幹部か何かだと思っているの?
下っパだからクィーンが何処に居るのかだなんて知らされないんじゃないの?」
「何だと!!クィーンの居何処ぐらい知っているぜ。今頃15番倉庫の中で鬼柳さんに可愛がられているだろう
よ。」
プチッ・・・
ジャックの中で何かが切れる。
気が付いた時には、男達が地面に這い蹲っている。
神業とも思える速さでジャックが男達を叩きのめしていたのだ。
その余りの速さにディヴァインやアキが呆然としてしまう。彼等もいざと言う時の為に超能力を発動させる準備を
していたのだ。
その超能力が発動する前にジャックが倒してしまった。
ディヴァインの傍に立っていたカーリーは、自分の胸に手を当てながら
(カーリー恐れていては、ダメよ。半人前だからって言っても貴女だってデュエリスト。いざと言う時に戦うのよ)
自分にエールを送っていた。
「15番倉庫へ、急ぎましょ・・・どうしたの?」
大きく震えながらしゃがみ込むアンジェラにアキが声をかけると
「はぁぁぁ・・・何だか急に震えが出て来ちゃって・・・」
涙がポロポロと零れ出す。
見下された事によって消え去っていた恐怖が今頃になって戻って来たのだ。
「よく頑張ったわね。貴女のおかげで遊星の居所が解ったわ。ありがとう。」
優しくアキに声をかけられどれほど自分が緊張していたのか思い知る。
「カーリー、アンジェラの傍に居てやれ。」
腰を抜かしているであろうアンジェラにジャックは、カーリーに傍に居てやる様に指示を出すが
「見くびらないで私なら平気よ。一緒に行ける」
ふらつきながらも気力で立ち上がるアンジェラ。
足手まといになりたくないのだ。
「しかし・・・」
「キング、私もアンジェラも足手まといになりません。だから同行させて下さい。」
必死の形相でジャックに食らい付くカーリーに
「足手まといだと思ったら放って行くからな」
「それで構いません」
「勝手にしろ。」
その言葉と同時にジャックは、カーリーから視線を背ける。
既に気持ちは、捕われの身となっている遊星の元に・・・
+++
「遊星、テメェに聞きてぇんだけどよ。その可愛い口でジャックのモノを奉仕したのか?」
何を言われたのか解らない遊星は、眉間に皺を寄せ怪訝な面持ちで鬼柳を睨み付けた。
そんな遊星の反応が楽しいのか鬼柳は、己がテンションを更に上げながら
「なぁんだジャックのヤツ、未だ調教途中だったのかよ〜。一人の女を調教するのに時間かけすぎだてぇ〜の。
涙が出る程マジ笑えるぜ。」
ジャックの事を罵り出した。
「・・・それ以上、アイツをバカにするなぁ!!アイツは、お前なんかと違い仲間想いの良いヤツなんだ。」
「ほ〜、良いヤツね。そんな良いヤツがセコイ手ぇ使って女を落したなんてねぇ〜。もう少し程度の高い女かと
思ったけど所詮セコイ手を見抜けられず落される様な女だ程度が低くて当然か。」
異様とも思える笑いをしながら遊星の顎を強く掴む。
痛み故か侮辱された事か遊星の顔が歪んで見える。
「その程度の低い女を必死に手に入れ様としている貴方も程度が低いんじゃないの?」
自分が程度の低い女ならそれを狙うこの男だってたかが知れている。
自分で程度が低い男だと宣言している様なモノだ。
「ハァ?オレかぁ?オレは、程度の低い女でも見捨てずに受け入れ様としている許容力ある男だぜ。」
寧ろ見捨てて欲しいと心の片隅で冷静に呟く遊星。
「さぁ〜遊星。お前の顔にオレの刻印を刻んでやるから有り難く思えよ。」
先程鬼柳に何か報告をしに来た男が熱く熱せられた棒を持ってくる。
一瞬何だか解らなかったが鬼柳の言葉を思い出しソレが何なのかが解った。
熱く熱せられたソレは、烙印。
「遊星。コイツを見ろよぉ〜。早くテメェの顔に醜い焼痕を着けたいって言っている様だぜぇ。」
狂喜に歪む鬼柳に対し恐怖に歪む遊星の顔。それがやっくりと遊星の顔に近付く。
その光景を見ている男達は、何も言えずただただ顔を引きつらせていた。